大日本料理研究会の講師を目指した吉田

 何はともあれ、別ページがあるというなら―と見に来た君は立派です。「食べ飽きた松茸」なんて、今なら産地でもこんな贅沢をしているとは思えん。これらのレシピを斜め読みすれば、それぐらい昭和初期の食材と食生活は全く違っていたことが少しはわかるでしょう。ですから、以下の吉田レシピを読んでね、試しに作ってみようなんて気は全く起きないでしょう。
 それはともかく、私としては、このページを作る当り口説きたくはないが、思わぬ苦労した。20種はあったはずのレシビが行方不明になっていた。1カ月たっても復活できたと通知のない突然読めなくなったUSBメモリーに入れたかも知れんと、半ば諦めかけていたらだよ、台鍋の資料探し中に3年分を纏めたファイルが出てきた。いやー、晩酌のビールが効いたねえ。
 これでわかるように、吉田は春秋園の開店以前から中外商業新報、いまの日本経経済新聞の家庭欄に料理を書いていました。上野の翠松園にいたら翠松園所属とわかるように書けと周囲から責められるので書かなかった、もしくは既に春秋園へトレードされていて開店まで所属は伏せるという条件で書いた―のどちらかだよね。中にあるように「支那料理の大家」としてアピールするために、原稿料不要と売り込んだかも知れません。
 いま読み返すと、覚えていた犬の餌は間違いなかったが「婦女界」レシピも入れていたことは完全に忘れていた。オマケだと気楽に加えたからでしょうな。ふっふっふ。
 ああ、それから台鍋はジンギスカンと直接の関係は認められないが、1つの鍋を囲むという形式という点では同じだからね。台の物という料理用語を知っているかな、それとどういう関係があるのか、ジンパ学として脱線に近いが、ある程度見当が付いたら、講義で話すつもりです。

資料その1

夏向の支那料理<横書き>
  海月の酢の物
  肉のお刺身
お宅でできます<上2行を挟み、その下に横書き>
         吉田誠一

支那料理といへば、夏のものでは
ないやうに思つてゐる人がありま
すが、支那料理にもあっさりした
夏向の料理が種々あります、家庭
で出来る簡単なものを申上げせう
  海月の酢の物
【材料】海月の塩漬二枚、酢、
砂糖。醤油、スープ、胡瓜少々
【調理法】海月は支那食料品店
で売つて居ります、まづ海月の
外部の黒い皮をはぎ、きれいに
水洗ひして二枚重ねて端からク
ル/\と捲き、小口から細く切
つて深鉢に入れ、上から熱湯を
被る以上に注ぎ、そのまゝ冷や
してよく洗ひ清水を充分に入れ
て一晩浸しておきます(多量の
場合は笊に入れて水気を断り冷
蔵庫へ入れておけば四五日は保
ちます)水に浸した海月は取出
してよく洗ひ、充分に水気を断
つて皿に盛つておき、胡瓜は細
く線に切つてその上へ適宜に盛
り三杯酢を注いで供します
 【三杯酢】 三杯酢の作り方
は酢と醤油、スープ各同量を混
合してその中へ砂糖を適宜に加
へ、ゴマ油を六滴加へたもので
す、これを皿に盛つた海月の上
から注ぎかけます、酢はなるべ
く食べる時に注ぎかけないと海
月が軟らかになつてしまひます
【調理別法】これをもつと上等
に調理するには水気を断つた海
月を皿に盛つておき、胡瓜の線
切を縦に三所に並べ、その間へ
若鶏を二時間位ゆでゝ冷やした
ものを線に切つて縦に並べ、上
は薄焼の卵を線に切つて振りか
けます、この料理はあつさりし
て歯ざわりよく、酒やビールの
肴にはもちろん婦人にもよろこ
ばれませう

  肉のお刺身
【材料】豚肉四〇〇グラム(約
百七匁)葱半本、生姜三片、醤
油二デシリツトル(一合一勺)
【作り方】豚肉は大切のまゝ鍋
に入れ、葱と生姜を小さく切つ
て加へ、醤油を注ぎ被るまで水
を加へて弱火にかけ約二時間半
位煮込んだら取出して冷まして
おきます、冷めてからこれを刺
身のやうに薄く切つて皿にきれ
いに並べ、小皿へ醤油またはオ
スタソースを添へて供します、
これは至極簡単に出来ておいし
いものです
(昭和6年7月12日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

◇油撲鶏◇
◇炒牛毛豆◇
◇油悶茄子◇<この3行は横書き>
 食慾を促す
  支那料理 
   どこの家でも出来る
         吉田誠一

暑苦しい昨今は、ことに消化器官
が弛緩して食慾が衰へて参ります
従つて食物が不味くなつて來ます
かういふ時に支那料理は、味覚に
強い刺戟を与えて食慾を促してく
れます、有合せの厨具で何処の家
庭でも出来得る夏向きの家庭支那
料理を申しませう

 油撲鶏<ユモウチイとルビ>
    (鶏肉の茹で揚たも
    の)五人前
【材料】 雛鶏一羽、葱半本、生
 姜四片、スープ一デシリツトル
 (五勺五)酒、塩、醤油、酢、
 砂糖、ラード
【調理法】 羽を折つた雛鶏の頸と
尾下を切つて臓腑を引出し、綺麗
に水洗ひして腹部へ生姜と葱を大
切のまゝつめて、それを深鍋の中
で水を充分にさして約三時間位茹
で引揚げます、次にフライ鍋にラ
ードを沸騰させ、茹た鶏の周囲に
醤油を塗りつけて褐色になるまで
揚げます(鍋の小さい時は骨の付
いた儘二つ割或は四ツ位に切つて
揚げます)
 揚つた鶏は脚を剥がし、肩から
胸へ包丁を入れて手羽をはずし、
適宜の大きさに切つて皿に盛り、
最後に笹身をとり両手で細くさき
更にその上へ綺麗に盛つて置きま
す、次に鍋にスープを沸騰させ、
塩、醤油、砂糖で甘からく味をつ
け、好みによつて少量の酢を加へ
その中へ葱と生姜の微塵切を一摘
みづゝ加へ、前の鶏の上から注ぎ
かけます、この鶏は洋食のロース
トチキンの様なものですが酢を加
ふればアツサリと美味しく頂けま


 炒牛毛豆  <チヤニユモトウとルビ>
     (牛肉と
      枝豆煮)五人
【材料】 牛肉或は豚肉三〇〇瓦
(八十匁)枝豆の皮を剥いだもの
 茶呑碗一杯、生姜二片、スープ
 一デシリツトル(五勺五)酒、
 塩、醤油、砂糖、ラード
【調理法】肉は筋を去つて糸状に
切ります、枝豆は皮を剥いて水洗
ひ、ざつと茹でゝ薄皮を剥き、生
姜は微塵に切つて置きます、次に
フライ鍋に少量のラードを沸騰さ
せ、肉と生姜をざつと炒ため、続
いて豆を加へスープを注し、酒、
塩、醤油、砂糖で味をつけ、暫く
煮てから器にとります
 枝豆の他、青椒(チンチヤウ)
といつて青唐辛子、隠元等を用ひ
ても結構です、これと同じ方法で
烏賊と枝豆に肉を煮ることがあり
ます、分量は烏賊と牛肉また豚肉
鶏肉等何品にてもよく同量、枝豆
は適宜に用ひます
(昭和6年8月19日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

イワシとサンマ
 応用の支那料理
  炸烹魚  費用は安くて
  紅焼魚   美味なこと万点
         吉田誠一

 秋の食膳に適しい鰯と秋刀魚が
訪れました、これから軒並にたヾ
よふ鰯と秋刀魚を焼く香にしみじ
みと秋を感じますが、鰯や秋刀魚
は値段が安いためか料理の方では
とかく軽蔑され勝ちのやうです、
こゝに申上げる鰯と秋刀魚の支那
料理は、費用が安くても百パーセ
ントの美味な調理法です
 炸烹魚(魚の甘酢煮)<ツアポンユイとルビ>
 【材料】 鰯十五尾、玉葱半個、
 筍(缶詰)玉葱と同量、椎茸四
 個、青豆少々、スープ〇・一八
 リットル(一合)酒、塩、醤油
 砂糖、酢、ラード、以上五人前
  調理法  鰯又は秋刀魚は腹
       を開いて臓腑を去
り、鰭々尾を切り去つてよく水洗
ひ、水気を断つてから四つ位にぶ
つ切ります、玉葱は縦横に三つ四
つに切り、筍も同形に適宜に切り、
椎茸は水に浸して四つに切ります
次に魚を深鉢に入れ、葛大匙一杯
を加へて魚に付着させ、それを沸
騰した沢山のラードで十分に揚げ
(少々焦げても硬くなつても充分
に揚げた方がよい)油気を断つて
置きます、更にフライ鍋に少量の
ラードを溶き、先に葱をざつと炒
め、続いて椎茸、筍、青豆を加へ
て炒ため、揚げて置いた魚を加へ、
スープを注し酒、塩、醤油、砂糖、
酢で甘酢加減に味をつけ、汁気が
なくなつてから器にとります
 これは甘味の勝つた方が美味の
 やうです、ラードで充分に揚げ
 てありますから、生臭味がなく
 骨や頭まで軟かく美味しく喰べ
 られ、常に鰯や秋刀魚を口にし
 ない人でも頂けます、支那料理
 ではこれを炸烹(ツアポン)と
 いひますが、お惣菜向きとし歓
 迎を受けて居ります、魚類、肉
 類、貝、[虫ト]<注 吉田のこの字は蝦の意>等を御試し下さい

 紅焼魚(魚の醤油煮)<ホンシヤウユイとルビ>
 
 次に別の方法としては今の魚を
揚げて醤油と砂糖で煮詰たもので
す、これは臓腑を出しよく水洗ひ
した魚を、その儘ラードで揚げて
置き、玉葱半個と椎茸の水に浸し
たもの四個位を前のやうに四ツに
切ります、揚げた魚はフライ鍋に
並べスープ〇・一八リツトル(一
合)を注し、砂糖と醤油で味をと
とのへその中に葱、椎茸(椎茸の
代りに松茸を用ふれば可)を入れ
汁気が煮詰つてから器に盛ります
これを紅焼魚(ホンシヤウユイ)と
いひますが、砂糖はあまり沢山用
ひない方が美味のやうです
(昭和6年10月1日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

///以上は春秋園開店前///



    これぐらいなら時価何万円でしょうか?

飽きた松茸で
この支那料理
 五目焼飯、揚げもの、甘煑

   大井町春秋園主 吉田誠一

 秋の味覚をそゝつた松茸も、も
早や皆様のお台所の片隅で邪魔も
の扱ひにされてありませう、申ま
でもなく同じ食ひ飽きた材料でも
調理方法を変へてこれを活してか
つ美味しく調理することが一家の
主婦たる任務であります。こうし
た時に何處の家でも簡単に出來る
支那料理の拵へ方を申ませう、私
共に強い刺戟を與へ食慾を促して
呉れます。

 松茸の五目焼飯
    (松茸炒飯(ソンアルチヤハン)
 【材料】松茸〇・三七グラム(約
 十匁)鶏肉或は豚肉0・三七グ
 ラム鶏卵一個玉葱四半個、青豆
 少々、酒、塩、醤油、砂糖、ラ
 ード、冷御飯適宜
 【調理法】 鶏肉又は豚肉を
九・一ミリメートル(三分)位の賽
の目に切り、松茸、玉葱も同形に
切ります。
 次にフライ鍋に少量のラードを
とき、卵を無雑作に炒つて器にと
つて置き、更に少量のラードを溶
いて肉を炒ため、続いて玉葱を炒
り、前の炒り卵を加へ酒、塩、醤
油、砂糖で薄味をつけ汁気が煮つ
まつた頃その中へ冷御飯を入れて
杓子でよく混付ながらよく炒ため
更に塩加減をして器にもります。
 材料は御好みによつて加減して
頂けば結構ですが、あまり汁気が
煮詰りません中に御飯を入れると
軟くなつて、美味しく出來ません
残りの冷御飯もこうして頂けば美
味しく頂けます。

 松茸の揚げもの
    (炸鮮松茸(ツアシイソンアル)
 【材料】松茸適宜、鶏卵、葛、
  ラード、塩、醤油
 【調理法】 松茸はきれいに
洗つて皮を剥き、大きなものは二
ツに切つてそれを縦に三ツ四ツに
切つて置きます。
莚承の夢巳養三宥せ、
その中へ塩と味の素で薄味を整の
へ前の松茸を入れて衣とし、沸騰
したラード或は落花生、胡麻油に
てカラリと揚げ油気を断つて器に
盛ます。
 こうして揚げるものは松茸に限ら
ず、茄子のほか種々な野菜を用ひ
てお惣菜などでも喜ばれます、衣
がおいしく頂けます。
<以下は甘煮だがコピー不完全>
 次にフライ鍋に少量のラードを
溶き、玉葱を先に
て松茸、筍、青豆
り、スープを注ぎ
砂糖で甘減に汁
分位に煮詰つた時
を加へ、よく混合
してから少量の葛
分かトロリとなつ
です。万人向の美
ます。
(昭和6年11月3日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)


季節向の支那料理<横見出し>
 白菜を主
  としたもの
   各家庭で喜ばれます

    大井町春秋園主 吉田誠一

  白菜の煮込み
    (白汁白菜(パアツーパアツアイ)
 【材料】白菜一本、スープ四デ
  シリツトル(約四合)塩、葛
 【調理法】白菜はよく洗い白い
 部分のみを九〇・九ミリ米(三
 寸)位に切つて鍋に入れ、スー
 プを注いで薄塩をして軟かにな
 るまで煮込みます。充分に軟か
 くなりましてから汁気を切つて
 器に盛り(洋食皿にて可)綺麗に
 丸くこんもりと盛上げ、ハムが
 あれぱその上に薄く切つて手際
 よく並べて置きます
 次に鍋にスープ茶呑椀一杯位を
 沸騰させ、薄塩をしてから葛を
 水に溶いてトロリとなつたもの
 を白菜の上から注ぎかけます、
 あつさりとして季節向の御料理
 ですから御試し下さい

 白菜のスープ
    (清湯白菜(チントオンパアツアイ)
 【材料】白菜半本、スープ適宜
  塩
 【調理法】白菜は前と同様に切
 つて薄塩をしてスープで軟かく
 なるまで煮込みます、充分に軟
 かくなつてから塩加減をして器
 にとれぱよいのです、白菜は甘
 味がスープに出て美味しく頂け
 ます
 支那人はこのスープを御飯にか
 けて、如何にもうまさうに食べ
 てゐるのを私共はよく見受けま
 す、あつさりとして寒い時に喜
 ばれるものです御試し下さい

 白菜と栗の煮物
    (栗子白菜(リイツパアツアイ)
 【材料】白菜半本、栗適宜、ラ
 ード、塩、醤油、スープ
 【調理法】白菜は綺麗に洗つて
 丈六デシ米(約二寸)位に切り
 横は適宜に切ります、それを沸
 騰したラードで揚げて油気を断
 つて置きます(白菜に水気が有
 りますから一時にラードの中へ
 入れると油が鍋外に吹出します
 から注意します)次に栗は皮と
 渋を剥いて御飯蒸の中で蒸しま
 す
 以上の用意が出來ましてからフ
 ライ鍋に少量のラードを溶き、
 白菜と栗をざつと炒ため、被る
 <1行脱落>
 塩と醤油で味をつけ(御好みに
 よつて少量の砂糖を加ふも可)
 汁気が半分位に煮詰つてから葛
 を水で溶いてその中に加へます
 白菜もかうして頂けば家庭の人
 に歓迎されること請合で御座い
 ます

 松茸白菜肉の
 煮もの
    (炒白菜肉糸(チヤパアツアイロウスー)
 【材料】白菜半本、松茸四本、
 鶏肉或は豚肉、スープ二デシリ
 ツトル(約二合)酒、塩、醤油
 砂糖、葛
 【調理法】自菜は前より小さく
 切り、松茸は縦に薄く切り、鶏
 肉、豚肉、牛肉何れにてもよく
 丈三デシメートル(一寸)位に切
 つてそれを細く切ります、以上
 の用意が出來ましてから松茸と
 白菜は別々に沸騰したラードで
 揚げておきます
  次にフライ鍋に少量のラード
 を溶き、肉を先にざつと炒ため
 置いて白菜と松茸を加へ、更に
 炒めてスープをそゝぎ、酒、塩
 醤油、砂糖で味をつけ、暫く煮
 込みましてから葛を加へて幾分
 かトロリとなつてから供します
 砂糖は牛肉鍋の様似あまり沢山
 用ひてはかへつて不味になりま
 す
(昭和6年11月11日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

お惣菜向き支那料理
 平凡な材料だが美味しい

季節の材料をとり入れて美味し
い、そして完全に近い栄養価を
そなへたお惣菜向の支那料理の
こしらへ方を申しませう。

  里芋と肉の煮込み
    (芋如焼肉(ユナイシヤウロウ)
『材料』里イモ、豚肉又は牛、鶏
肉、醤油、砂糖、スープ、塩、酒。
『調理法』里イモは皮をむきよく
洗ひ、大きなものは適宜に切つて
ざつとゆでおきます。次に肉です
が、豚、牛、鶏等何品にてもよく、
角砂糖位の大きさに切り、少量の
ラードでざつといためます。(肉
の分量は適宜ですがイモの半量位
が適当です)いためた肉にゆでた
イモを加へスープを被る以上にそ
ゝいで、それに酒、醤油、塩で味
をつけ、少量の砂糖を加へて文火
にして汁気のなくなる位まで煮込
みます。簡単に出来て美味しく頂
けます。

  大根のスープ煮
     (水晶蘿菔(スヰシヤウロホー)
『材料』大根、スープ、塩、葛。
『調理法』大根は皮をむき、それ
を角砂糖位の賽の目に切り、お湯
でざつとゆでます。ゆだつた大根
は水気をきつて鍋に入れ、スープ
を充分にそゝいで塩味をつけ、文
火にしてやはらかになるまで煮込
み、下しぎはに葛の水溶を少量流
し入れてトロリとさせ、器にとり
ます。あつさりと美味しく頂けま
す。(大井町春秋園吉田誠一氏談)
(昭和6年11月16日付報知新聞朝刊5面=マイクロフィルム、)

支那料理<横見出し>
 イカの油いり
 鯉の丸あげ
  季節もので温かく
   おいしく頂けます
 
   大井春秋園主 吉田誠一<横組み>

烏賊の油炒り
    (炒目魚(チヤモユイ)
【材料】烏賊二尾、椎茸五個、
 葱二本、生姜三片、青豆、酒、
 塩、砂糖、ラード、葛
【調理法】  烏賊は脚と足を
去り、胴を綺麗に水洗ひして、縦
に二つに開いて三筋に切り、これ
を縦に一分置き位の庖丁目を入れ
庖丁はなるべく深く切りはなさぬ
やうに注意します
 次に横一寸位の間隔に庖丁目を
入れ、それを斜に丈一寸幅四分位
の削身が出来ましたなら笊に入れ
て熱湯をかけ水気を断つて置きま
す、椎茸と筍、葱は短冊切りにし
生姜は微塵に切ります、鍋に少量
のラードを溶き、烏賊を入れてざ
つと炒り他の材料を加へて更に炒
め、スープを注ぎ、調味料を加へ
て薄味となしよく沸騰させ、水溶
の葛を加へ器に盛ります
 この烏賊は切目が入つて居りま
すから、くる/\と巻き、綺麗な
ものです、食べます時に胡椒を振
りかけて頂きます

 鯉の丸揚げ甘
 酢煮
    (留鯉魚(ルリイユイ)

【材料】鯉一尾六〇〇瓦(百六十
 匁)筍一本、青豆大匙一杯、芝
 蝦の皮を剥ぎたるもの廿疋、葱
 半本、椎茸五個、玉葱半個、酒
 塩、醤油、砂糖、酢、葛、スー
 プ二デシリツトル(一合一勺)、
 ラード
【調理法】 鯉は鱗を去つて
腹に庖丁を入れて鰓と臓腑を取り
去りよく水洗ひして、頭の方から
一寸おきに同じ間隔で庖丁を表裏
とも入れます(背骨は切離さぬ様
注意します)
 次に鍋に沢山のラードを沸騰さ
せ、鯉の頭の方から鍋に入れ充分
に揚げて油気を断つて大皿に盛つ
て置きます(鯉は非常に強いもの
で料理されても時には器からはね
出る事が有りますから沸騰したラ
ードに頭を先に入れば危険の恐れ
が有りません)
 次に椎茸は水気を搾つて四ツに
切り、筍は縦に二ツに割つて薄く
斜切となし、玉葱も縦に薄く切り
日本葛は微塵に切ります、芝蝦は
皮を剥いて置き、鍋に少量のラー
ドを溶き、全部の材料を入れてざ
つと炒め、青豆を加へスープを注
し、調味料で甘酢加減に味をつけ
更に良く煮ましてから水溶の葛を
加へてトロリとさせ、鯉の上から
かけて供します
 支那料理店で最後に甘酢の丸煮
の鯉が出ませう、かうして拵へれ
ば簡単に出来ます、御不明の際は
御電話、御来店下されば喜んで実
地について申します
(昭和6年11月27日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)


  吉田氏が支那   支那料
  料理の相談部   理界の
           大家、
大井町春秋園主吉田誠一氏は支那
料理普及のため今回相談部を設け
無料で家庭向支那料理の作り方に
つき一般の相談に応じ懇切に教授
するさうです
(昭和6年12月3日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)


昭和7年分


支那風の鮎料理
  支那でも鮎は珍重
      春秋園主 吉田誠一
   
美味しい新鮮な鮎が解禁されま
した。日本人は殊に初鮎を珍重し
ますが、支那でも香魚(シヤンユ
イ)と稱して供されてをります。
そこで鮎の変つた支那風の料理を
作ることもあへて不要のことでも
ありません。二三鮎の料理法を申
しませう。
  高麗番魚<コウリイシヤンユイとルビ>
   (鮎の白味揚げ)
  材料   鮎十尾、卵白四個
分、葛大さじ四杯、塩、ラード。
  調理法   鮎はあり大きく
ないががよいやうです。二枚にお
ろして骨をきれいに取去り、薄塩
をしておきます。次に卵の白味は
深鉢にとり、泡立器で充分に泡を
をたて、薄塩をしてその中へ葛を
加へてよく混合せ、前の鮎を入れ
て衣といたします。次に新しいラ
ードを鍋にわかし(あまり沸騰し
過ぎぬやう)鮎を一尾づゝ入れて
色を白くからりとあげ、油気を切
つて器にとり、醤油あるひはウス
タソースを添へて供します。

  煎香魚<センシヤンユイとルビ>
   (鮎の油煎り)
  材料   鮎十尾、ラード、
スープ、醤油、塩、砂糖、葛、卵
三個。
  調理法  鮎は腸を取去り、
頭と骨も去りましてから二つに開
いて薄塩をしておき、卵を割つて
それに葛大さじ三杯を加へてよく
まぜ合せ、鮎の衣とします(前の
黄味のみを用ひても可)次にフラ
イ鍋にラードを沸騰させ(鮎が半
分油にひたる程度)にて鮎を一尾
づゝ並べて入りつけるやうにい
たします。片側が火が通りまし
てから杓子で裏を返していりつ
け、火が通つてから油気を去つて
器に盛つておき、次に鍋にスープ
五勺位を沸騰させ、塩と醤油で味
をつけ、砂糖小さじ一杯位を加へ
てそれに水溶の葛を流し入れてト
ロリとなつた汁を前の鮎の上から
そゝぎかけます。好みによつては
燔鯉魚のやうに甘酢の汁をかけて
も美味しく頂けます。
(昭和7年5月30日付報知新聞朝刊5面=マイクロフィルム、)

 味覚一夕話(上)
  支那料理
   研究實に三千年前から
    大井町<横書き>
    春秋園談<横書き>
  
 今  日の支那料理は世界的に
認められ、欧米は固より我国でも
これが著しい発達を見るやうにな
つて参りました、殊に東京地方で
は年一年と嗜好者が多ぐなり――
最近では他の料理ほ圧倒してゐる
やうであります、今日の衣食住は
大体に洋風でありますが、洋食そ
のものがかなり行詰つて居るやう
であり、それに反して支那料理店
はます/\増加して來たといふ事
実は誰も否むことは出来ません
  □  □  □
 殊  に今日の如く不況の時に
は人を招くにも、宴会を催すにも
支那料理で招待する傾向が多くな
つて來たやうな有様で、将来は今
日よりも一層支那料理が民衆的の
力を以て伸展して隆盛になること
は疑ひを容れません、ところが日
本の家庭における一部の婦人の間
に、敢へて旧式の婦人とは申しま
せんが、支那料理といへば脂濃い
そして後口の悪い感を想像し、ま
たそれを聞いていはゆる喰ベず嫌
ひの人か変な氣持になつで、ハン
カチを口に当てるといふ婦人を時
には見受けることもありますが、
かうした婦人は支那料理の真味を
知らないのであります
  □  □  □
 支  那料理は古来三千有余年
前の周代には既に含味に關する官
府まで設けられ、民國廿年の今日
に至るまで間断なく研究されて來
たのであります、從つてその間各
地各省の珍料理、悪食料理、美味
な料理、贅沢料理、大衆的料理等
が立派に発達して参りました
  □  □  □
 お  よそ支那料理は古くから
研究に研究を重ねられて來たもの
で、俗に三世衣を知り、五世味を
知るなどゝの世俗がある如く、真
味を知ることがむづかしいのです
日本料理も古は支那料理の影響を
受けたものが多く、日本の食制の
大膳職、主膳職、内膳職から造酒
司、主醤司、主菓餅司等は皆支那
の制度を真似たもので、文武天皇
時代に鎌足不比等が勅を受けて、
周禮、唐令を学習したことがあり
近喜式大学寮には、辺、豆、鹿醢
脾折(牛の肚肉)兎醢、豚拍(豚
の脅肉)などの語があつて、周禮
の朝事、饋食の献立に傚つたのだ
といふことです、その他食品、製
品類、茶、砂糖、唐菓子の製法、
豆腐、うどん、饅頭、餅、蒟蒻等
も支那から来たもので、室町時代
に支那文物が盛んに輸入された時
代は宴会なども共卓式で、箸の他
匙を用ひ、食物も支那式に調理さ
れたものだといひます、又日本で
も長崎料理のやうに一種の特徴を
以てゐる料理がありますが、それ
は支那料理が日本化したといつて
も過言ではありません
  □  □  □
 日  本料理の代表は刺身で、
刺身の付かぬものはほとんど料理
とされてゐない位でありますが、
支那人に云はすれば、たヾ綺麗な
生肉を庖丁で切つて並べたヾけで
これは料理の部に入らぬといひま
す、全く何日もグツ/\煮た料理
を食ひ慣れた支那人にすれば、刺
身は砂か泥を噛むに等しいものか
も知れません、今日の一流支那料
理店の料理を見れば、周の時代か
ら春秋戦国を経て、秦の始皇帝や
漢の武帝乃至三国を経て随唐の時
代に出来た宮廷料理と、宋、元か
ら明朝にかけて用ひられた贅澤料
理などが悉く取入れられて卓上を
にぎはしてをります(つづく)
(昭和7年6月9日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

 味覚一夕話(下)
  支那料理
    支那人は味ひ方の天才
      大井町<横書き>
      春秋園談<横書き>
 
 支  那人はしかもこの上に珍
料理を望み、酒池肉林の享楽三昧
に夜を日についで、有らん限りの
豪奢を極めた漢の和帝の料理に用
ひられた材料を求むるにも容易な
業でなく、或時は愛妃の笑を買は
んがためにさへ、十里に一還五里
に堠、人民多数の命をかけても
新鮮な茘枝を貢せたといふことは
有名な話でありませう、然しかゝ
る豪奢は帝王にしてこそ始めて行
はれることでありますが、一般人
民には出来ないことでず、しかも
その要求する材料は四百余州の国
内には勿論、遠く海外からも運ば
ねばならず、それに交通運輸の不
便なところから料理の材料を乾物
にするか或は塩蔵することを工夫
して、救ケ月以上一年も要してと
り寄せたものだと言ひます
  □  □  □
 從  つてこれらの珍材料で、
その珍料理を拵へるには四日も五
日も前から竈に火を落さぬやうに
して実に念の入つた調理法をとつ
ておりました、なほ又それらの料
理の真味を味ふにも、単に卓上に
運び出された料理を箸でつゝいた
だけではいけないので、その料理
の出来る順序とか、料理場の様子
材料及び料理の値段とあらゆる点
まで知つてゐなければいけません
  □  □  □
 支  那では如何に大家の主人
であつても、野菜類から鶏卵に至
るまでの安価なものまでも値段を
実によく知つて居り、調味の加減
などでも、味覚がよく発達してゐ
て湯即ちスープ等の味ひ方に至つ
ては驚く程の天才を持つてゐて湯
を一匙味へばそれでおよそ一卓何
の位の料理であるかと大体の見当
がつくといひます、でありますか
ら手数を抜いて手つ取り速いカム
フラヂユな料裡や、真の燕の巣を
用ふぺきに人造燕巣を使ふ時は直
ぐ発見されるのであります
  □  □  □
 そ  れは如何に大家の子供で
も、或は欧米帰りのモダンのレデ
ーであつても、その食ふといふこ
とにかけては実に味覚が進んでを
ります、のみならず調理の事にか
けてもまた支那人はなか/\進ん
でゐて、支那人は見た眼よりも美
味でなければなりまぜん、その栄
養価も充分にあり、不老長寿とい
ふことがとりわけ主眼とされてゐ
て、寧ろ支那料理は綺麗でないの
が特色であります
  □  □  □
 支  那人は十人か九人までは
胃袋が大きく、從つて何れも健啖
家の方であり、酒豪であるともい
へます、ですから日本人のやうに
アツサリと茶漬で飯といふやうな
ことでは満足することが出来ませ
ん、また支那人の多くは精力絶倫
のやうです、その点から見ても支
那料理は如何に精力増進の目的を
持つて調理されてゐるか見当がつ
きませう(をはり)
(昭和7年6月10日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

 鱶のヒレと
   支那酒の話
支那料理<横見出し>
   呑まないまでも
   一通りは知つてゐたい
  
 支那料理で魚翅といへば鱶の鰭
のことてすが、これも種類が頗る
多く、東北方面で産出するものは
吉切、鼠、青等です、これ等の多
くは北海道方面及び東北海岸地方
が生産地であります、また九州地
方でもこれに次ぎ相当よい品を出
してゐますが、魚翅の
  本場   といへば南洋です
然しあまり高価につくので一般に
は用ひられてゐないやうです、こ
の鱶の鰭は燕巣に次いで珍重品と
されてゐて、支那料理にはなくて
はならぬものです、鱶はいふまで
もなく不味なものですから、鱶の
みを目的としで鱶の漁に出かけ、
沖に於て肉は捨て、鰭だけを持帰
り、原形の儘乾固めその内上下を
作るのてあります、料理にして軟
くネツトリとし筋の太いものを上
等品とし、筋が細くプキ/\とす
るものを下等品としてをります、
いづれにしても、これ等を
  調理す   るには、四五日
も前から力マドに火を落さぬやう
に念の入つた調理法をとるのです
それから支那には種々な酒が沢山
ありますが、一般に知られてゐる
老酒といふ酒は寧波方面で醸造さ
れるのでありますが、日本へ輸入
されてゐる老酒は南支の浙江省紹
興の關亭の上流鑑湖の水と糯米を
以て醸造された酒で、陶器の甕に
詰め、小皿の蓋をして、その上を
泥で密封してあります、これを紹
興老酒といつてをりますが、これ
にも四種あつて、醸造方法は同じ
ですが
  水量と   年数の加減で太
彫、花彫、竹葉青、状元紅等いつ
て供されてゐます、太彫と花彫と
は、その甕に極めて美しい支那美
人や花等を描かれてゐます、これ
は二度醸した酒で、九年乃至十年
も経つてから用ふので、酒精分と
水分が少く、従つて口当りは軽く
頭に上らないので一般に好まれて
をります、それから甕を白くぬつ
てあるのを竹葉青といひ、幾分か
青味をおびてをります、これ等は
水気も多く年数も尠いので、苦味
と醋味を有つてゐます、何れも燗
をして飲むもので、竹葉青と状元
紅等には氷砂糖用ひます、殊に
  宴会   には味覚の調和を
図る為に酒はこの老酒にかぎられ
てをります、高粱酒とは高粱の生
産地で高粱に大豆と大麦の麹を醸
造させたもので醸造した焼酒で無
色透明、酒精の分量は老酒に比べ
てやゝ強い、更に強い酒を原粱と
いひ非常に強烈な酒があります、
これ等は満洲方面に多く用ひられ
また上海辺りのク下(田舎)の中流
以下の家庭や農夫などに用ひられ
一般の宴会にはあまり強烈の為に
さほど用ひられません、以上述べ
た酒の他に支那酒には
  薬酒が   沢山あつて、そ
の主なるものは鹿筋酒、玖瑰花酒
五茄皮酒、桂花酒、橙々花酒、佛
手酒、大槽焼酒、栖焼酒、麦焼酒
白酒等を初めとし風蛇酒、虎骨酒
蜊蜴等の入つた変つた酒を広東地
方から産出し、支那全土に行渡つ
てをります、しかもこれ等は精力
を増進せしめると同時に不老長寿
薬として大家の老人間に歓迎され
てをります(大井町春秋園主談)
(昭和7年6月21日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

 珍味は燕窩
  南方と北方の
    支那料理の相違
   吉田誠一氏談<横書き>

 北京料理の中にはよく竹孫湯
(ツスンタン)といつてスープの
中に用ふる一種の菌があります、
これは四川省の料理であり、また
銀茸(ニンアル)と称して白い木
茸があります、これも四川省より
他に全く出来ません、燕窩は広東
が本場とされて居りますが、多く
は南洋のセレベス方面とボルネオ
方面から広東地方の商人の手に入
るのです、この一方、南京料理は
材料の豊麗によつて一般に知られ
て居ります、それから北方の料理
は濃厚であつて、南方の料理は幾
分か清淡になる傾向がありますが
これは全く気候の関係であります
また北方の材料を見れば魚類より
も獣肉類が多く、米よりも麦とか
粟等を多く用ひてゐます、南方は
割合に魚類、水禽類、米等を多く
用ひて居ります、即ち地理の関係
によるのであります、更に料理の
種類から見れば、北方は炸物、炒
り物、即ち炸八塊(ツアバツケイ
鶏の揚もの)とか炒肉糸(チヤロ
ウスー豚肉の炒りもの)炒肉韮菜
(チヤロウヂンツアイ韮と肉の炒
りもの)といふような、揚物と炒
り物の料理に長じてをり、南方は
長時間煮込むものと、長時間蒸す
ものゝ料理に秀いでゝをります、
之は全く燃料の関係によるのであ
ります、北方の主要燃料は爐煤
(ルメイ)といひ、石炭に泥を練り
混ぜたものやコークスの類を使用
し、火力が非常に強烈ですから、
炸物と炒りものゝ料理に最も適し
てをります、まだ南方の主なる燃
料を見れば薪炭類が多いやうです
いふまでもなく、これらは火力が
弱いから炸物や炒り物に適せぬ為
に、長時間蒸す料理で、清敦魚(チ
ントンユイ魚の蒸し物)黄悶全鴨
(ホワモンチヨエンヤア鴨の丸蒸
し)等を初め煮込み物では紅焼海
参(ホンシヤウハイスン海鼠の煮
込み)鴨の丸煮といふやうな料理
と、鴨や鶏の丸煮のスープ等に最
も適してゐるやうです、即ちこれ
は燃料の生産関係によるのであり
ませう、支那料理中最も珍重され
てゐるものは燕窩と魚翅(ユイソ
ウ)はいふまでもありません、そ
の内燕窩は前にもいつたやうに南
洋のセレベス方面で最も多く産す
る金糸窩といふ海燕の一種の巣で
あつて、我国で見受る人家の軒下
に泥を以て造つた巣とは違ふこと
はいふまでもありません、彼の燕
が海岸の断崖の洞穴を選び、海草
や小魚を捕へて自己の唾液で幾月
日を重ねて造り上げ、この中で雛
を育てるのでありますが、他の動
物に襲れぬため断崖絶壁の光線の
さゝぬ洞穴を選んで巣を作るので
す、従つてこれらの巣を採取する
にはすこぶる困難がともなひます
ボルネオの北部に有名に燕巣の本
場があつて、こゝの採取権は土人
中の一族が占有してゐるといひま
す、支那人は古来これを珍味とし
て貴び支那料理中代表的なものと
されてをります。燕巣の上等品は
白色で龍牙燕(ロンヤーヱン)と
いひ、鼠色を帯びたものを毛燕と
称してをります燕巣の食味は至つ
て清淡なもので主として湯(スー
プ)に用ひます、燕巣でも人造物
かありますが口に入ればすぐわか
ります
(昭和7年6月24日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

避暑地料理<横書き>
 有合せの材料で
  素敵な支那料理
      春秋園 吉田誠一

海岸へ避暑にお出掛の
際有合せの厨具でハマ
グリ、アサリ、サザエ、
アハビ、カニ等を材料に、手軽に
出来る支那料理の作り方を申上げ
ませう。
  ハマグリ   貝殻をむいて
から卵の白味をどんぶりに割り、
はし五六本をまとめて攪はんして
あわを立て、その中へ葛を加へ薄
塩をして沸騰した油で揚れば美味
しく出来ます。(鶏卵一個に葛大
さじ一杯の割合)(油は食用のも
のであれば何油にても可)
  アサリ   は熱湯に入れ、
口が開いてから手早く引上げ(半
煮を可とす)それに三杯酢をそゝ
いで頂けばビールの肴に最も喜ば
れます。酢の作り方は醤油、酢、
水、以上を同量に味の素と砂糖を
適宜に加へ、胡麻油五六滴を落と
し入れ、シヤウガの微塵切を少量
加へます。
  サザエ   は丸焼にして肉
を引出し薄く切つて冷めてから前
の三杯酢をそゝいで用ひてもよ
く、または薄切肉と有合せの野菜
少量を油でいため、塩味をつけて
頂きます。
  アハビ   は貝殻を去つて
醤油に水を薄めてそれを文火にか
けて三四時間位煮てから取出し、
冷めてから小口から刺身にして鍋
の汁をそゝいで食すればあつさり
と何人にも歓迎されます。また薄
く切つたアハビ肉を油でいため、
好みのまゝに塩味をつけて頂きま
す。
  カニ  はゆでて肉を取出し
カニ一疋に卵一個の割合で混合せ
薄塩をして鍋に少量の油を溶き、
ボロ/\にいためあるひは鍋型に
丸く焼上げます。これはみな手軽
に出来て美味しく頂けます、どう
ぞおためし下さい。
(昭和7年7月19日付報知新聞朝刊5面=マイクロフィルム、)

海と山と<横見出し>
  避暑地で出来る
   支那料理(上)
    有合わの厨具で手軽に
      塩原温泉
      春秋園出張店  吉田誠一
  
 炎暑の都に居たたまれず、海へ
山へと押出す人がかなり多いやう
ですが、避暑地に永く滞在して一
番困るのは食物でせう、二三日の
中は土地の料理も嗜好の違ふ関係
から不味いながらも食べられるも
のですが、もうその上は我慢が出
来なくなります、その時に有合せ
の厨具で海や山で獲へた材料を主
として支那料理でもこしらへたら
一興でせう、そこで簡単に出来る
支那料理を三四種紹介致しませう
 先づ海岸に避暑なさる方はハマ
グリ、アサリ、サザエ、アワビ、
カニ等を初め、種々の魚を獲へま
せう、その時は次の方法で調理し
て御覧なさい
    ◇
 ハマグリ   ハマグリは貝殻
を剥いてから卵の白身をどんぶり
に割り、箸五六本をまとめて攪拌
して泡を立て、その中へ葛を加へ
薄塩をして沸騰した油で揚れば美
味しく出来ます、分量は鶏卵一個
に対し葛大匙一杯の割合で、油は
食用のものであれば何でも結構
です
    ◇
 アサリ   アサリは熱湯に入
れ口が開いてからて早く引き上げ
(半煮を可とす)それに三杯酢を
注いでいたヾけばメールの肴に最
もよろこばれます
 三杯酢の作り方は醤油、酢、水
 以上を同量に味の素に砂糖を適
 宜に加へ、ゴマ油五六滴を落し
 入れシヨウガの微塵切を少量加
 へて混合せます
     ◇
 サザエ   サザエはそのまゝ
壺焼きにして肉を引出し冷めてか
ら肉を薄く切り、前の三杯酢を注
いでも美味しく、あるひは薄引の
肉と有合せの野菜少量を油で炒め
塩味をつけて頂いても結構です
     ◇
 アワビ   アワビや貝殻を去
つて醤油に水同量を薄めて文火に
かけ、三四時間位煮込み、それを
引出し冷めてから小口切りにして
鍋の汁少量を注いで進めます、あ
つさりして何人にも歓迎されます
又は薄く切つたアワビを油で炒め
好みのまゝに塩味をつけていたヾ
きます
     ◇
 カニ  カニは塩ゆでにして肉
を取出し、カニ一疋に鶏卵一個の
割合で混合せ、薄塩をしてから鍋
に少量の油を溶き、ボロ/\に炒
め或は鍋型に丸く焼き上げます
     ◇
 魚類  釣り上げて來た魚類は
あまり大肴でない限り、鱗、臓腑
等を去り、それをぶつ切り、沸騰
したラードで充分に揚げ、ネギを
大切のまゝ加へ、薄醤油で文火で
煮込みます、あるひは揚げた魚を
砂糖と醤油で甘辛からく煮付ます
(つヾく)
(昭和7年8月3日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

 海と山と<横見出し>
  避暑地で出来る
   支那料理(下)
    有合わの厨具で手軽に
      塩原温泉
      春秋園出張店  吉田誠一
  
 山の避暑ではあまり変つた材料
がありませんが、沼や池、川など
では魚が釣れます、主として、鮎
鯉、鮒、ヤマベ、鱒、イワナ等で
ありませう、その他赤蛙、田螺、
カタツムリ等の山の中のものも調
理法によつては美味しく食べられ
ますが、それ等は省略して魚のほ
か新鮮な野菜料理を申上げませう
     ◇
 鮎  鮎は頭、骨、臓腑等を取
去つて卵一個に葛大匙一杯を混ぜ
せた衣をつけて食用油で揚げて置
き、次に鍋に水一デシリツトル
(五勺五)を沸騰させ、醤油、砂糖
酢、塩、味の素で薄味をつけ、葛
少量を加へてトロ/\になつた汁
をそゝぎかけます
     ◇
 鯉  鯉は臓腑、鱗、骨、頭な
どを去つてそれを切身にし、醤油
二デシリツトル(一合一勺)酒一
デシリツトルとネギ一本、シヨウ
ガ三片大切のまゝとをまぜ合はせ
た汁に三四時間浸して置きます、
それを沸騰したラードで充分に揚
げ、揚げ立ての熱い中にタレを煮
沸してその中でざつと漬して引上
げ冷めてからいたヾきます
 タレの作り方は醤油二デシリツ
 トルへ水一テシリツトルを割り
 それに酒少量と砂糖適宜を加へ
 沸騰した熱い汁を用ひます
 鮒 鮒と小鱒はうろこと臓腑を去
り、裏表共一寸置きに斜に包丁目
を入れ、葛をまぶして沸騰したラ
<数行欠落>
ードで充分に揚げ、それを冷して
から更に揚げ直します(一度では
充分に揚りませんから二度揚げま
す)次に鍋に酢、醤油に水を同量
沸騰させ、ネギ一本と椎茸五六個
を適宜に切つて加へ、砂糖を甘加
減に入れてから葛を加へてトロト
ロの汁を揚げた鮒、鰌などの上か
ら注ぎかけます
 ヤマべ   ヤマベ、イワナ等
はきれいに下ごしらへをしたもの
を一寸位のぶつ切りにして、醤油
<数行欠落>
た野菜と豆腐等を加へ、チリ鍋の
やうに水煮します、それを煮なが
ら酢、醤油を同量混合してシヨウ
ガの微塵切りを加へた二杯酢を、
煮た材料につけていただきます、
温泉地などの夕立の冷しい晩に酒
の肴や御飯の菜に最も美味しいも
のです
 ナス  ナス十個位を縦に四ツ
に切り、それを沸騰した油で揚げ
油気を断つておきます、次に鍋に
水二デシリツトルを注し、酒、醤
油、砂糖で甘からく味をつけ味噌
を加へて煮沸し、ナスを加へ汁気
のなくなるまで煮込みます、これ
は熱い中でも冷めてからでも美味
しくいたヾけます
 枝豆 枝豆は皮を剥いてざつ
と茹で、薄皮を剥ぎ、シヨウガ少
量を微塵に切り、肉類(鶏肉、牛
肉、豚肉何にても可)を適宜に
糸状に切り、全部一度に少量のラ
ードで炒め、水一デシリツトルを
さし、酒、塩、醤油、砂糖、味の
素等で味をつけしばらく煮てから
器にとります
 枝豆の他、隠元豆、青唐辛子等
 を用ひても結構です
支那料理でも以上のやうな手軽に
出来る料理もあれば一つの料理を
五六日もかゝつて調理することも
あります、むづかしく考へないで
簡単に御調理下さい、美味しくい
たヾけます
(昭和7年8月4日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

 食慾を促がす
  夏向家庭支那料理
    有合せの厨具で出来る

 暑苦しい昨今はことに消化器官
がし緩して、食欲が衰へて來て食
物がまづくなります。かういう時
に支那料理は味覚に強い刺戟を與
へて食欲を促してくれます、有合
せの厨具でどこの家庭でも出来得
る夏向家庭支那料理を御紹介いた
しませう

 豚肉の冷菜
   醤油肉<チヤンローとルビ>
材料 豚肉四〇〇瓦(約百七匁)、
ネギ半本、シヤウガ三片、醤油二
デシリツトル(一合一勺)
拵え方=豚肉は大切のまゝ鍋に入
れ、ネギとシヤウガは小さく切つ
てそれに加へ、醤油をそゝぎかぶ
るまで水を加へて弱火にかけ約二
時間半位煮込んでから取出し、冷
しておきます、食事の時にさめて
からこれを刺身のやうに小口から
薄く切つて皿に綺麗に並べ、小皿
へ醤油またはオスタソースを添へ
て進めます、これは至極簡単に出
来てアツサリと美味しく頂けます

 牛肉と枝豆煮
   炒牛毛豆<チヤルウモトウとルビ>

材料 牛肉あるいは豚肉三〇〇グ
ラム(八十匁)枝豆の皮をむいたも
の茶呑碗一杯。シヤウガ二片、ス
ープ一デシリツトル(五勺五)酒、
塩、醤油、砂糖、ラード
拵へ方=肉は筋を去つて糸状に切
ります、枝豆は皮をはいで水洗ひ
ざつとゆでゝ薄皮をむき、シヤウ
ガはみじんに切つておきます、次
にフライ鍋に少量のラードを沸騰
させ、肉とシヤウガをざつといた
め続いて枝豆を加へスープを注
し、酒、塩、醤油、砂糖で適宜に味を
つけ、しばらく煮てから器にとり
ます
 これと同じ方法で烏賊と枝豆に
 肉を煮ることがあります、分量
 は烏賊と牛肉または豚肉、鶏肉
 等何品にてもよく同量、枝豆は
 適宜に用ひて惣菜向料理を作り
 ます

  茄子の揚げ煮
  油燜茄子<ユウモンガツとルビ>
材料 ナス十個、ラード、醤油、砂
糖、酒、スープ一デシリツトル(五
合五)
拵へ方=茄子は若いものを縦に四
つに切り、それを沸騰したラード
で充分に揚げ、油気を切つておき
ます、次に鍋にスープを注し、酒
醤油、砂糖で甘からく味をつけ、
火にかけて沸騰させ、ナスを加へ
て汁気のなくなるまで煮込みます
これは熱い内でもさめてからでも
美味しく頂けます

  大根のスープ煮
   水晶蘿菔<スイシヤウロウボーとルビ>
材料 大根一本、スープ、塩、葛
拵へ方=大根は皮をむき、それを
角砂糖位の賽の目に切り、お湯で
ざつとゆでます、ゆだつた大根は
水気を切つて鍋に入れ、スープを
充分に注いで塩薄味をつけ、文火
にして軟かくなるまで煮込み、下
し際に葛の水溶にしたものを少量
流し入れてトロリとさせ、器にと
ります、夏大根もかうして調理し
て頂けばあつさりと美味しく頂け
ます(春秋園吉田誠一)
(昭和7年8月9日付報知新聞朝刊9面=マイクロフィルム、)

支那料理<横書き>
 エビと豚肉を
  主材料に
   食卓を味覚の変化
      大井春秋園 吉田誠一

 秋風の身も心も引締つて参りま
すと今まで眠つていた食慾が急に
醒めて、濃厚美味な支那料理が歓
迎されるやうになります、お惣菜
向のものを二三御紹介いたします
から、食卓の変化に御調理下さい
 清湯芙蓉<チントオンフーヨンとルビ>
  (卵蒸と海老団子のスープ)
 【材料】筍半本(缶詰)海老の皮
 を剥きたるもの、二七グラム
 (十匁)椎茸五個、青菜少々、
 ハム四片、卵三個、塩、スープ
 一リツトル(五合五勺)
  調理法  芝海老又は河海老
は皮ほ剥き水で洗つて包丁で叩き
つぶして塩で薄味をつけ、小さく
団子を何個も作り熱湯で茹で笊に
上げ水気を断つて置きます、次に
卵は白味だけを深鉢にとりスープ
半量を加へて箸でよく攪拌して、
そのまゝ蒸籠又は御飯蒸器に入れ
て約廿分間位蒸して置きます、次
に水に浸した椎茸と筍、青菜等は
細く線に切り、ざつと茹で水気を
搾り深鉢に盛つて置き、鍋に残り
のスープと沸騰させ、塩味を調へ
その鉢に注ぎ、海老の団子もあた
ためてそれに加へ、卵の蒸したも
のも取出して匙ですくつて鉢に加
へ、ハムは色の配合に上に並べ、
熱い内にすゝめます、これは見た
目も美麗しく又美味なスープで何
人にも喜ばれます

 炒回鍋肉<チヤホエコウロウとルビ>
  (豚肉の甘から炒り)
 【材料】豚バラ肉の皮の付いた
 もの、七五クラム(二十匁)
 玉葱一個、椎茸五個、筍半本、
 スープ一デシリツトル(五勺五)
 ラード、砂糖、醤油
  調理法   豚のバラ肉に皮
の付いたものを注文しまして、大
切のまゝ深鍋に入れ、被る以上の
水を注して火にかけ約三時間位白
茹にして取出し、冷めましてから
丈三〇・三ミリメートル(一寸)幅
一五・二ミリメートル(五分)位に
切つてこれを刺身のやうに薄く切
り、玉葱は縦に薄く椎茸は水に浸
して四ツに、筍は斜に切ります、
次にフライ鍋に少量のラードを注
き、全部の材料をざつと炒りスー
プを注し醤油と砂糖で甘からく味
をつけ、暫し煮てから器にとりま
す、更にこれに三ツ葉、芹菜、セ
ロリ等の季節野菜を加へまたは、
唐辛子等を好みによつて用ひても
結構です
(昭和7年11月12日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

 エビ、卵、豚肉に
  鴨の支那料理
   季節向ら恰好です
    大井春秋園 吉田誠一

 烹對蝦<ポントエシヤとルビ>
     (車海老の炒煮)
 【材料】車海老十尾、玉葱一個
  スープ、醤油、酒、砂糖、卵三
  個、ラード、葛
 (調理法) 車海老は水洗ひし
て頭と足をさり、皮はそのまゝに
して置きまして三ツ四ツのぶつ切
となし、玉葱は二ツに割つて細切
とします、次に丼に卵を割り葛大
匙一杯をその中へ混合せ、切つた
海老を入れて衣とします
 次に鍋にラードを沸騰させ車海
老をカラリと揚げて置きます、更
に鍋に少量のラードを溶き、玉葱
を入れてざつと炒り、揚げた海老
を加へて更に炒り、スープを注ぎ
調味料で味を調へ暫く煮てから水
溶きの葛を加へます
 これは甘みの勝つ方が美味の
やうです

 蛋餃<タンチヤオとルビ>
    (卵肉肉包み)
 【材料】卵十個、豚挽肉一五〇
 瓦(四十匁)生姜三片、葱半本、
 スープ〇・三六リツトル(二合)
 酒、塩、醤油、砂糖、ラード
  (調理法) 挽肉は丼に入れ
葱は微塵に切り、生姜は汁を搾つ
て、酒、塩、醤油、砂糖を丼の挽
肉に加へて良く攪拌せ直径五十錢
銀貨位の団子を作ります、卵は別
の鉢に割り塩を加へて良く混ぜ、
茶呑茶碗十個へ卵三分の一を入
れ、蒸籠へ並べ一寸固るまで蒸し
肉団子一個を茶碗の中央に載せ、
残りの卵を茶碗一杯になるまで流
込んで更に蒸固めます、次に鍋に
沢山のラードを沸騰させ、蒸した
卵を茶碗から抜き取つて狐色に揚
げます、次は他の鍋にスープを沸
騰させ、塩、醤油で味をつけ、揚
げた卵は一寸煮込んで器にとりま


 紅焼全鴨<ホンシヤオチヨエンヤとルビ>
     (鴨の丸煮)
 【材料】鴨一羽、葱一本、生姜
 四片、酒、砂糖、塩、醤油、葛
(調理法)鴨は尾下を切つて
切口から臓腑を引出し、綺麗に水
洗ひしてから葱と生姜を大切のま
ま詰込み、深鍋に入れ、被る以上
の水を注し火にかけて煮ます、沸
騰しますと泡が浮揚りますからそ
れをさり、次に砂糖、酒、塩、醤
油で薄味を付け、文火にして一時
間位煮込みます
 次に鴨の入る位の深鉢にそのま
ま移し、蒸籠へ入れて三時間位蒸
しますと軟かになります、これを
取出し鉢の汁は別の鍋に取り、鴨
は腹の中の葱と生姜を取去り、胸
を上に向け大皿に盛つて置き、鍋
の汁は火にかけて沸騰させ、水溶
きの葛を流入れてとろりとさせ前
の鴨の上から注ぎかけてすゝめま

(昭和7年12月16日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)


昭和8年分

 支那風の
  お餅料理<2行横書き>

洋風のお餅料理
支那にも正月に
は年糕といつて
餅の種々な美味
しい食べ方があ
ります。年糕は
日本の餅と違つ
てモチ米を以つ
て作るのではな
く、あたかも新
粉団子のやうな
もので、砂糖を
加へたり種々な
形のものが水に
浸しあります。それを取出し
次のやうな方法で食べるのです
が、こゝでは日本の餅を支那風
の食べ方を二三御紹介致しま
す。

 年糕湯<ニエヨウトオンとルビ>
    (雑煮)
 材料――餅、ハウレン草、タケノ
 コ、シヒタケ、豚肉、スープ、
 酒、塩、醤油。
餅は小さく切つて焼く。ハウレン
草または白菜は小さく適宜に切り
それをざつとゆで、タケノコは缶
から取出してこまかくシヒタケも
端から細く切り豚肉または鶏肉も
同様に切る。次にスープも鍋に沸
騰させ、その中に野菜と肉を入
れ、酒、塩、醤油で味を整へ浮き
上つた泡を去り、餅を入れてちよ
つと煮てからおの/\椀に取分け
て頂きます。
 これで新粉団子を用ふれば更に
 支那風になります。野菜や肉は
 御好みの物を御用ひ下さい。

  肉糸年羊<ロウスウニエユウとルビ>
   (餅と炒り)
 材料――豚、餅、タケノコ、
 三葉、シヒタケ、酒、醤油、砂
 糖、ラード、スープ。
餅は短冊に切つて置き、豚肉は適
宜の線に切り、タケノコ、シヒタ
ケも同様に切り、三ツ葉はざつと
ゆでゝ四〇ミリメートル(一寸五
分)に切ります。次にフライ鍋に
少量のラードをとき、肉、野菜を
入れてよく炒め、スープを材料の
半分位そゝぎ、酒、醤油、砂糖で
味をつけ、しばらく煮込みまして
から下しぎはに餅を加へて混合せ
好みの器に盛ります。以上の野菜
に芝蝦を用ひたりあるいは鴨、キ
シ等の好みの肉類を御用ひ下さい
変つた餅の食べ方として歓迎され
ます。(吉田誠一)
(昭和8年1月7日付報知新聞朝刊5面=マイクロフィルム、)

ウヅラの卵で
  勅題を描く
   酉年に因む支那料理
     大井町
     春秋園主  吉田誠一
  
 勅題「朝海」を描いた鶉卵のス
ープと、酉年に因んだ鶏肉料理を
二三御紹介いたします、御家庭で
お作りになれる様に手加減を加へ
て置きましたからお好みにお試し
下さい美味しく出来ます
 朝海 
  (鶉卵のスープ)
【材料】鶏卵十個、ハム三片、筍
 一本、椎茸四個、青豆少々、ス
 ープ五デシリツトル(二合八
 勺)塩、醤油
  調理法  先づ盃十個へ薄く
胡麻油を指で塗り付け、その中へ
鶉卵一個づゝ割ります(鶉卵の黄
味を盃の一寸の端に寄せそれを日
出とします)次に青豆を庖丁です
り潰して鶉卵の白味の上に浪を描
き、筍を薄く切つて白帆の形を作
り、それを浪間にのせ静かに蒸籠
に並べて蒸し固めますと、綺麗な
日出が雲を透して海の上に浮んだ
模様になります
 次に筍、椎茸は薄く斜に切り鍋
に入れ、スープを注し沸騰させて
泡を去り、醤油で一寸色を付け、
塩味を加へて深鉢に盛り、蒸固め
た朝海鶉卵を盃から抜取つて浮べ
て進めます、スープの野菜は三ツ
葉等を御用ひになることも結構で

 
 竜鳳腿<ロンボンタイとルビ>
     (鶏と蝦の揚物)
【材料】鶏肉二〇〇瓦(五十三匁)
 芝蛯の皮を剥いだもの二〇〇瓦
 筍一本、椎茸の水煮浸したもの
 六個、葱半本、生姜三片、卵三
 個、豚の網油二枚、葛、塩、砂
 糖大匙一杯、ウスターソース、
 食パン半斤
  調理法 皮を剥だ芝蛯又は
河蝦と、鶏肉、椎茸、筍等を小指
先位に小さな賽目に切り、葱と生
姜は微塵に切ります、全部切れま
したら鍋に入れ、砂糖、塩、ウス
ターソースで薄味をつけ、葛大匙
一杯を加へてよく混合せて置きま
す、次に網油(網油は肉屋に言付
けますと取寄せてくれます)を多
量の水の中へ入れて洗ひ、笊をさ
かさにしてそれに拡げて水気をき
り、水気がきれてから、それを俎
板に拡げて葛をパラ/\と振かけ
卵に葛を混合ぜたものを網油一面
に塗つけます(卵一個に葛大匙一
杯の割合)それを包丁でなるべく
一二一、二ミリメートル(四寸)位
の正方形に切りまして、先に混合
せて置いた材料を大匙山盛一杯位
を丸めてのせ、鶏骨を六〇、六ミ
リメートル(二寸)位に切つて挟
み腿の形に包み合せ目を下にして
大皿に並べます全部出来ましたな
らその儘蒸籠に入れて約廿分間位
蒸し、これを取出して鍋に沢山の
ラードを沸騰させ、狐色にからり
と揚げ油気をきつて置きます、別
に食パンは薄く六〇、六ミリメー
トル位の長方形に切り、それを皿
に並べその上に今揚げた料理を載
せて供します、これは丁度コロツ
ケーの様なもので体裁もよく口当
りもよく万人に向く御料理です

 炸烹鶏<ツアポンチイとルビ>
   (鶏と野菜の甘から煮)
【材料】鶏肉三〇〇瓦(八十匁)
椎茸四個、筍一本、スープ少量
青豆大匙一杯、ラード、塩、酒
醤油、砂糖、酢
  調理法  鶏肉は角砂糖位に
ぶつ切り、椎茸は四ツに筍は薄く
適宜斜に切ります、次に鍋にラー
ドを沸騰させ鶏肉に醤油をまぶし
てカラリと揚げ、更にフライ鍋に
少量のラードを溶き、筍、椎茸、
青豆等をざつと炒り、スープ大匙
四杯を注して醤油、砂糖、酒、塩
等で甘からく味をつけ、その中へ
揚げた鶏を加へて汁気のなくなる
まで煮詰め、器にとります、野菜
は筍、椎茸と一定して居りません
から御好みの野菜を御用ひ下さい
(昭和8年1月13日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

 支那料理<横書き>
  家庭的の
   小宴会と作法
  (1)すぐ応用できる

    大井町春秋園
    吉田誠一<2行は横書き>

 支那料理はちか頃非常な流行で
宴会なども支那料理でやる向きが
多くなり、知己友人達を招待して
家庭で小宴会を催すといふやうな
こともありますが、さうした場合
に困るのは支那料理の食ぺ方や作
法でせう、そこでその場合の心得
を申上げませう
    ◇
 先づ宴会を開き人を招待せんと
する場合は、豫め招待状を出して
その人の都合を問合せ、返答が到
達して人数がきまりましたら主婦
の第一に配慮せねばならないこと
は、献立の極め方と、食卓の作り
方であります、日本料理や西洋料
理のやうに毎日喰べてゐるもので
あればさほど苦心も要しませんが
支那料理の食卓は取扱ひも変つて
居りますから次に家庭的宴会と正
式宴会の区別を述べませう

   什器と圍碟の
   並べ方

 先づ卓を置きクロースをかけま
す、什器は料理店や什器のお好な
家庭では銀製のものがありますが
一般家庭では陶器が一番簡単で便
利です、挿絵の(一)は銀器を用ひ
た正式の八仙卓子(八人テーブル)
の一部であります、器具は一人前
づゝ並べ、グラス、盃、ナフキン
等も付け「四乾果」「四鮮果」
「四蜜餞」「四冷葷」をテーブルの
真中を〇、三〇三メートル(一尺)
位残して順序よく配置します、挿
絵の(二)は家庭向の陶器を用ひま
した並べ方は客の數だけ箸台を置
いてその上に箸を載せます、次に
箸の前の左に直徑九〇、九ミリメ
ートル(三寸)位の小皿を置き、そ
の右に七五、八ミリメートル(二
寸五分)の小皿を並べ、チリレン
ゲをその上に載せますが、若し揃
はない場合は同形でもかまひませ
ん、グラスは小皿の前に置きその
右の横に盃を付けます、ナプキン
も右の方に適宜に折つて置き、テ
ーブルの真中〇、三〇三メートル
位を残して醤油壺、酢壺等を置き
西瓜の種子、南瓜の種子等を小皿
に盛つて配置し、四凉葷も並べて
置きます、支那料理の卓には盛り
花、敷花等はあまりいたしません
から西洋料理の卓にくらべると至
極簡単です
   宴會の作法
 まづ別室に茶、西瓜子(西瓜の
種子)煙草等を用意して客を迎へ
食卓の用意が出来ましてから食堂
に客を導き、主人若くは代人をし
て着席を定めます、また多人数の
場合は前から名札を貼り、着席を
乞ふ壌合もあります、着席が出來
ましてから主人が立上つて各人
(一テーブル八人)に敬意を表して
酒を注ぎ廻ります、この時は客も
必ず立上つて受けることになつて
居ります、食卓には隙磯や四種の
前菜を並べてありますから、主人
まづ箸を取り、料理の上をチンチ
ンと言つて箸を廻します、三、四
種熱い料理が出た時に主人は立上
つて挨拶をなすを通例とし、客の
答辞もこれに準ずるのであります
また料哩が濟みましてから宴会の
終りを告げた後、客を別室に導き
茶、煙草等の接待や談話の交換等
をいたします、客は随意に主人に
謝意を述べて退席するを例といた
します(つヾく)
(昭和8年1月26日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

 支那料理<横書き>
  家庭的の
   小宴会と作法
  (2)すぐ応用できる

  食卓配置と
  着席順

 次に席は大小人數によつて一様
にはまゐりません、一卓を八人と
し「八仙卓子」一・二一二メートル
(四尺)の正方形の角で一邊に二人
づゝ、総てヾ八人着席が出來ます
それ以上は必ず二卓としますが、
正式な宴会でない限りは十人位の
着席も可とします、この場合は角
卓よりも丸卓の方が便利です、座
席は第一図に示すやうに主人は入
口の方に、主賓はその前で上席と
なります、次席は主賓の左で、主
賓の右が三席になります、次席の
左が四席で、三席の右が五席、そ
の右が七席、主人の右が六席であ
ります、また二卓の場合は食堂に
入つて左側が上席で右は次席で着
席順は第二図の如くなります

宴會料理の
食べ方
 
 食卓に着きますと熱いタオール
が出ます、それで顔や手をきれい
に拭きます、そして酒が始まりま
すと、食卓の中央へ熱い料理が運
ばれます、主人は箸を廻してチン
チン(何卒々々)といつて客に進
めながら自分も料理を取ります、
この際料理には別に箸も匙も付い
て居りませんから各自のものを使
ふのが本式でありますが近頃日本
における料理屋は箸や匙をつけて
日本化して來ました、本式の場合
はまん中の料理を取るために箸は
長くなつて居ります、もし客が遠
慮して食べない時は、主人は自分
の箸で客の小皿に斜理を挾んでや
ることもあります、これは衛生家
には不快の感を與へるやも知れま
せんが、日本人の茶の喫廻し、ス
ヱーデンではスコール、イギリス
ではラビングカツプに酒を注いで
飲み廻すことから考へますと別に
変りのないわけです、しかも至つ
て家族的で親しみを一層深くする
やうに思ひます
 料理は次から次と出てまゐりま
すから、出されたなら直ぐに食べ
て差支へありません。給仕は圍碟
をそのまゝ置いて熱い料理の明き
皿を順々に下げます、蒸しタオル
は料理の間に數回出されます、主
人は料理の出る度に酒をチン/\
といひながら乾杯して料理を食べ
ます、菜單(献立)によつて料理が
終りますと飯あるいは粥が出ます
が、これは好みによつて食べるも
ので、粥には醤豆腐(獣の血で豆
腐を漬けたもの)がありますから
これを添へて食べます
 料理が済めば蒸しタオルが出ま
す。よくクロースが汚れる程、そ
の日の御馳走がよく、また主人に
対する感謝のしるしのやうにいふ
方がありますが、これは間違ひで
箸や匙を遠方から使ふために汁が
落ちて汚れるのであります。かゝ
る場合、梅花点々などといつて、
主人は御愛想をいつてゐますが、
客としては避けたいものです(を
はり)
(昭和8年1月27日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

 寒い夜の家庭料理に
  わんたんはいかヾ
   上品なのが頂けます

焼売と共に雲呑は支那料理中の最
も大衆的なものです。丁度団子や
ウドンのやうに、どちらかといへ
ば民衆料理、そして寒い頃にはお
つゆ代りにこよないものです。
 皮の作り方
支那ソバの種を売る店にならば出
来たものもありますが、家庭でも
簡単に作れます。材料はメリケン
粉、塩、葛粉、上等には卵の白味、先
づメリケン粉に少量の塩を加へ、
丁度団子を練るやうに充分ねり
す、玉子の白味を使うふのだつた
ら、水をさす前に加へてねる、ね
り上つたかたまりは打粉として葛
粉を用ひながら
  めん棒   (竹筒でも簿記
棒)でも結構で一方から押つけて
のばし、更に細長く三つにたゝん
でのばす、細長く上るやうにめん
棒も斜に使ひます。三つ折になつ
たのをkろ建甑冨鐵いの竃
ばしてにまた三つ折にしてのほす
といふ具合に何回も繰返し全体を
平均に出来るだけ薄くのばして、
最後に三寸角の大きさに切りま
す。破れた處は使ひません。

  調理と供し方
 豚の挽肉廿匁、シヤウガ一本、ネ
 ギ半本、白菜一枚、スープ五合
 五勺、醤油、塩少量が材料
挽肉をどんぶりに入れ、シヤウガ、
ネギ、白菜は微塵に刻んで薄塩わ
してこれに混ぜ合せ少量宛前の皮
の一方からくるんで両側の端はつ
まんでZ字形に押へつけ、出来上
つたら熱湯でゆでます、次に鍋で
  スーブ   を煮立たせ塩、
醤油で味をして、鉢に取り前の材
料がゆで上つたら一鉢に十二個乃
至二十個位を入れて、細切りのネ
ギを一つまみ加へて供します、挽
肉の中には時に鶏肉、芝エビ、カ
ニ、タケノコ、シヒタケ、三つ葉、青
豆等を加へますとそれ/\゛風味を
得て非常に上品に頂けます(吉田
誠一)
(昭和8年2月8日付報知新聞朝刊5面=マイクロフィルム、)

雛祭の支度<横書き>
 可愛いお客に喜ばれる
  綺麗な支那菓子
   美味しいのが手軽に作れます
        吉田誠一

お雛祭には可愛い
お客ばかりですか
ら料理でもお菓子
にでも綺麗で美味しく、しかも衛
生的で簡単に出来得るものず歓迎
されます、左にさういふお菓子の
こしらヘ方を申します

 桃・林檎・兎・お雛様
  お嬢さんにも出来る
   いろ/\な形の山芋の菓子

  【材斜】 山イモ一本皮をむ
いて四〇〇グラム(百七匁)葛、
茶呑碗一杯、小豆餡少々、食用
紅少々、砂糖
  【作り方】 山イモは皮をむ
き適宜に切つて御飯蒸器に並べて
蒸し、取出して冷めてから庖丁の
横で練つぶし、それに葛大さじ山
盛一杯を加へてよくまぜ合せてお
く、次に小豆餡は普通餅菓子に使
ふものでよく、それを適宜に丸め
て前にねつたイモで大福餅のやう
に包み、これに桃、リンゴあるひ
はウサギ、お雛様等好みの形を作
ります、これは十四、五歳のお嬢
さんでしたら粘土細工のやうに楽
しみながら出来ます
  出來上つたもの   は蒸
籠に並べて、約十五分間蒸しそれ
を取出して食紅で着色します
 桃やリンゴであれば紅色を小皿
 に溶き、歯ブラシの新しいもの
 に紅をつけて、指先で静にはぢ
 きますと飛汁がリンゴや桃に染
 ります
それを更に蒸籠に入れて蒸して冷
めぬやうにしておき、次に鍋に砂
糖湯を沸騰させ、浮き上つたあわ
を去つて、水溶の葛を流し入れ、
トロリとなつた時に蒸籠から材料
を取出して器に盛り、その上から
静かにそゝぎかけて熱い内に進め
ます

 目新しい
 菱餅の代用
 材料は白隠元
 【材料】  白隠元一合、砂糖、
メリケン粉、餡、食紅少々
 【作り方】  白隠元はざつと
ゆでゝ皮をむき、更にやわらかく
なるまで弱火にかけて煮る、やわ
らかになつたら水気をきつて冷し
ておき、それを庖丁で横で練りつ
ぶし少量の砂糖を加へてまぜ合せ
ておきます、次にメリケン粉は茶
碗に入れて御飯むしの中で約二十
分蒸して取出す、以上の用意が出
来ましたら蒸したメリケン粉をま
な板にパラ/\とふり
  練つた隠元を   適宜の大
きさにひろげ三分位の厚さにのば
しその上に餡を同じ厚さにのば
し、更に隠元を三分位にのばして
その上に重ね、三重にいたします
(手に隠元の附着する時はメリケ
ン粉を用ふること)次に砂糖に食
紅で薄紅く色をつけ、それも三分
位の厚さに前の隠元の上に静かに
おさへる、これで四重に出来上り
ました、それを適宜菱形に切つて
器に盛り菱餅の代りにお用ひ下さ
い、いずれも目新しく喜ばれます
(昭和8年2月25日付報知新聞朝刊5面=マイクロフィルム、)

 季節の野菜を
  取り入れて
    お惣菜向き支那料理

季節の野菜をとり入れて簡単にできるお惣菜向
支那料理――しかも美味しくて食欲を増すとい
ふ春秋園吉田誠一氏自慢のものを紹介します

 炒牛豆爽<ルビなし>
  (牛肉と隠元いり)
 【材料】牛肉三〇〇クラム(八
 十匁)サヤインゲン適宜、生シ
 ヤウガ二個、スープ一デシリツ
 トル(五・五勺)酒、塩、醤油、
 砂糖、ラード
【拵へ方】 牛肉は筋をとつて糸状
に切り、ざつとゆで冷水に入れて
冷しておく、生シヤウガがはみぢん
に切る次にフライ鍋に少量のラー
ドをときシヤウガと牛肉をざつと
いり、インゲンを入れて更にいた
め、それにスープを注ぎ、酒、塩、醤
油、砂糖で味をつけ、しばらく煮
て水気がなくなる頃に器にとりま
す、野菜はサヤインゲンにかぎら
ずおこのみのものを前の方法で用
ひればよい

 干焼春段<クシヤウシユンダンとルビ>
   (肉と野菜の卵巻)
 【材料】豚肉一一〇グラム(三
 十匁)タケノコ半本、シヒタケ
 五個、ネギ半本、鶏卵二個、葛粉、
 ラード、スープ約五勺、酒、塩、
 醤油、砂糖
【拵へ方】豚肉は筋をとつて約薬一
寸位の繊切にし、水にひたしたシ
ヒタケとタケノコ等適宜の野菜も
せんに切る、次にフライ鍋にラー
ドを僅かとき、先に肉をざつとい
ため、それに野菜を加へて更にい
り、スープを注つぎ酒、塩、醤油、
砂糖で味を調へ、しばらく煮込ん
でから水にといた葛粉を流し入れ
てそれを深鉢に取り、ネギを薄く
斜に切つて生のまゝそれにまぜ合
せておきます、次に卵を割り葛大
さじ二杯を加へてよくかきまぜ、
フライ鍋で薄焼の卵を二、三枚作
り、これで前の材料をノリ巻のや
うに親指大にまき、合せ目は前の
卵の残りかメリケン粉を水で溶い
たものでよく付着させ(中身の出
ないやうに両端共に附着させま
す)それを沸騰した深山のラード
の中で充分に揚げ、油気をきつて
から一寸位に切つて器にきれいに
盛ります、今は三つ葉、セリ、豆
もやしなどがありますからこれ等
を用ひればよりおししくいたゞけ
ます

 掊逢蒿菜<ベエボンハウツアイとルビ>
   (春菊菜の和もの)
 【材料】春菊菜三〇〇クラム
 (八十匁)乾豆腐二個、醤油、砂
 糖、酢、ゴマ油、スープ
【拵へ方】春菊菜は熱湯でざつと
ゆで、よく冷して固くしぼり、一
寸位に切ります、乾豆腐は水にひ
たしてやわらかくし、水気をしぼ
つて短冊に切ります、鉢に前の春
菊菜と豆腐を入れ、醤油、砂糖、酢、
スープを同量にまぜ合せ、その中
へゴマ油二三滴おとして、それで
春菊を和へてすゝめます
(昭和8年5月1日付報知新聞朝刊9面=マイクロフィルム、)


節句に
 因んで  鯉料理(上)
   ◇まづ鯉の由来から
      大井町
      春秋園主 吉田誠一

 五月の風に勢ひよく幟の鯉が躍
り、金光燦然とした矢車がクルク
ルと廻る、非常―――日本に相応
しく目出度い端午の節句が近づき
ました
    ◇
 支那に侮辱された日本は過去四
十年、支那に打ち克つて欧米に知
られ、次いでロシアの東洋侵略を
ノシて世界の一等国に列しその後
三十年の今の日本は、世界五十
ケ国際連盟を橿手に、心地よくノツ
クアウトするやうな立派な國にな
つたのも、昔時より変らぬ心に尚
武の節句をお祝する、これ国民の
心地があればこそと頷かれませう
    ◇
 昔の武士と町人の区別が厳格な
時代、現在とは異ひ町人は武士に
殆んどなれる可能性のない時代で
もt町人の家で男の子が生るれば
尚武の節句は祝つたものです、然
しながら町人は武家と同様に武具
等の飾り付けることは遠慮したもの
とみえます、奔流や瀑布をも無雜
作に上る程の勇敢な鯉も、一度人
に補へられ俎上にあるも泰然自若
として苦悶輾転の状もなく最期を
待つ姿は武士の如く、また一面に
は川流を遊泳する姿は悠然として
君子の如く、出世魚の王として日
本男性を表現するこの鯉魚を用ひ
たが鯉幟の由来であります
    ◇Q
 武家は勿論町家でも景氣よく飾
るやうになり、お座敷の鯉幟には
威勢の好い鯉に赤い顔した可愛い
金太郎が抱き付いてゐる物までが
今日なほ飾られてをります、しか
しこの元気溌剌たる鯉も、初は我
国に生れたものではなく、太古は
中央アジアに生れ、その後支那へ
移り、そして我国へ渡来したもの
であります、支那では周時代(三
千年前)に既に料理に用ひられ、
我国では景行天星の御代(千八百
五十年前)に鯉を養うたといふ記
録から見ましても、それより以前
から我国に渡来したものに相違が
ありません
    ◇
 鯉に付いての伝説は種々あつ

 神農書に=鯉最為魚之五三十六
 鱗と書し、詩経には豈其食魚必
 河之鯉とあり、又鯉百年を経れ
 ば龍となるといはれ、或は 大
 の源はこれを崑崙山脈より発す
 積石山を経て龍門となり三級の
 大瀑布となる、諸魚昇り得ず、
 落て死すといはれ、後漢書の李
 膺傳に士有被其容接者名為登龍
 門とありますから
人の出世するを登龍門といふはこ
れより起つたものでありませう
    ◇
 こり龍に化すといふ伝説から鯉
が古くなれは神霊があるといはれ
我国にもこのやうな伝説がありま
す、砂石集に昔、江州の湖水で大
鯉が獲れたのを憐れに思ひ一人の
山僧は買ひとつて湖に放つたと
ころ、夢に翁が現れ仏果を得る機
会を失つたと山僧を非常に恨んだ
といふなど沢山あります
    ◇
 今日わが國で見受る鰹には真鯉
緋鯉、変り鯉のほか、革鯉といふ
ものもあります。真鯉は川河湖沼
に棲み、また池に養ふ鯉でありま
すが、之には体の幅の狭いのと廣
いのが有ります、川河に棲む鯉は
体が筒状を呈して肉も締り美味な
れど、東京に見る鯉のほとんどは
養鰹場より來たもので、頭が小さ
く体の幅のみ成長して一見鮒の如
く脂肪多く肉は軟かいから味は前
者より劣ります
    ◇
 次に緋鯉と変り鰹は金魚と同様
に支那で変種されたもので、緋色
の濃淡。白や黒斑のもの等あり、
変り鯉には白色、藍色の他又これ
等の斑の綺麗なものがあります、
何れも池に観賞用として飼養され
一般には殆んど食用には用ひられ
ませんが、これは見た感に依るも
ので、調理されたものは眞鯉と変
りなく、時には婦人病に効くとか
胃腸病の薬になるなどゝ、種々な
名目のもとに好んで食べる人もあ
ります、日本で鯉料理で主なるも
のに洗、鯉こく、生造りのほか、
味噌焼等があり、洋食には種々な
スープ料理があります
(昭和8年5月3日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

 節句に
 因んで  鯉料理(下)
   ◇まづ鯉の由来話から
      大井町
      春秋園主 吉田誠一

 支那料理では最も一般に知られ
てるは◇鯉魚を初とし清◇鯉魚、
燻魚等の美味なものもあります、
それから革鯉はドイツ鯉と呼ばれ
体は広く頭は小さくて、鱗は背の
基部に小さなのが一列に並び、そ
の下部には大きな鱗が二三列ある
のみで、大部分は皮革様な皮膚で
被はれてあります、鯉に付いては
この位にして置き、次に鯉の支那
料理を二三御紹介することにいた
します
   鯉の甘酢煮
 【材料】 鯉一尾、六〇〇瓦(百
 六十匁位)筍〇、七五瓦(二十
 匁)青豆(莢にても可)大匙一
 杯、葱半本、椎茸五個、玉葱半
 個、酒、塩、醤油、砂糖、酢、
 葛、スープ二デシリツトル(一
 合)ラード
  拵へ方=鯉は鱗を去つて腹
に庖丁を入れて鰓と臓腑を去り、
綺麗に水洗ひしたものはよく水氣
を断つて、頭の方から三〇・三ミ
リ米(一寸)置きに同じ間隔で庖丁
目を表と裏に入れ、背骨は切り離
さぬやうにいたします、次に鍋に
沢山のラードを沸騰させ、鯉の全
体に大匙半杯の葛を両面に付着さ
せ、頭の方から入れて充分によく
揚げ冷して置きます
 (前にも述べた如く鯉は非常に
 勢がよく庖丁を入れられても生
 てゐて尾の先尖を先に油に入れ
 れば威勢よく飛出すことが有り
 ますから、頭を先に入るれげ危
 険は免れます)
次に椎茸は水気を搾つて十文字に
切り、筍は茹たものを二つに割つ
て薄く斜切り、玉葱は縦に薄く、
日本葱は微塵に切ります、以上の
用意が出來ましてから鍋に盃一杯
のラードを溶いて全部の材料を炒
め、スープを注ぎ、砂糖大匙山盛
三杯、酢大匙三杯、醤油大匙五六
杯と酒二杯後は塩で味を調へて置
き、前に揚た鯉を更に充分揚直し
て大皿に盛り、鍋の材料に葛大匙
山盛一杯半を水溶して混入れ、鯉
の上から注ぎかけて進めます

   鯉の燻製
 【材料】 鯉一尾七五〇瓦(二百
 匁)生姜三片、葱一本、ラード
 または胡麻油、醤油、一八リ
 ツトル(一合)砂糖大匙山盛二
 杯、スープ半リツトル、酒盃一杯
  拵へ方=鯉は鱗や臓腑を去
つて綺齢に水洗ひ、頭を去つて二
枚におろし、片身を五六片に切り
生姜は薄く、葱は斜切にして鉢に
入れ醤油半リツトルに砂糖大匙一
杯を入れて、良く混合せてそのま
ま三四時間前に浸して置きます、
それを沸騰したラードまたは胡麻
油で鯉を充分によくからりと揚げ
油気を断つて置きます、これはな
るぺく揚たてのものがよいのです
から、その前に鍋にスーブを注ぎ
残りの半リツトルの醤油を加へ、
大匙一杯の砂糖と酒も加へて沸騰
させて置き、揚つた鯉を熱い内に
その汁の中へ通しすぐに引上げて
汁氣を断り、冷めましてから小口
切にして頂きます


   鯉のスープ煮
     の二杯酢
 【材料】鯉一尾七五○グラム(二
 百匁)生姜八片、葱一本を一寸
 位に切つたもの、ラード少々、
 スープ〇、三六リツトル(二合)
 醤油半リツトル、酢半リツトル
  拵へ方=鯉は鱗や臓腑を去
つたものを頭を去つて二枚に下ろ
し又は筒切にしても結構です、次
には生姜は皮をはいで出來るだけ
小さく微塵に切り、醤油と酢を同
量づゝ混合せた汁を作り、その中
へ浮かべ各人に小丼に注ぎ分けて
置きます、切れました鯉は盃二杯
のラードでフライ鍋で生姜五片と
葱一寸位に切つたもの五六本とを
同時に入れて両面を炒めスープを
被るまで注し(スープの間に合ぬ
時はダシ汁でも又は水に味の素を
加へてもよし)て火を通し、沸騰
してから浮上つた泡を去り、丼に
取つて、そのまゝ食卓に運びます
頂きます時は注ぎ分けた酢醤油に
つけて食べます、一寸チリのやう
なものですが、熱い内に頂けば腥
味もなくアツサリと美味しく食ぺ
られます
(昭和8年5月4日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

支那料理<横書き>
  季節のもので
   手軽で美味な
    食欲を増す四種
      春秋園  吉田誠一

季節のものを用ひて、家庭で手軽
にできる支那料理を恩紹介いたし
ませう
 芙蓉湯<フヨウトオンとルビ>
  (卵蒸と海老団子スープ)
 【材料】筍半本(缶詰)芝蝦の
 皮を剥いて〇・三七グラム(十
 匁)椎茸五個、青豆少々、ハム
 四片、卵一個、塩、スープ一リ
 ツトル
 調理法 芝蝦又は河蝦の皮
を剥き、それを水でよく洗ひ、水
気を切つてから、包丁で叩きつぶ
して塩で薄味をつけ、適宜の団子
を何個も作りそれを熱湯で茹で笊
に上げて水気を斷つて置きます、
次に鶏卵は白身のみを深鉢にとり
スープ半量を加へて箸でよく撹拌
して、そのまゝ蒸籠又は御飯蒸の
中で約廿分間位蒸して置きます、
次に水に浸した椎茸と筍、青菜の
茹でたものを適宜の線切りにし、
それを湯に通して温めて水気をし
ぼり深鉢に盛つて置き、残りのス
ープは鍋に注いで沸騰させ、浮上
つた泡を去り、塩味を整へて深鉢
に注ぎ、蝦団子も温めてそれに加
へ蒸卵も取出して匙ですくつて鉢
に加へハムは適宜に並べて進めま


 煎魚
  (鮃の炒り煮)
 【材料】鮃三七五グラム(百匁)
 筍〇・三七五クラム、葱一本、
 生姜三片、塩、酒、醤油、砂糖
 胡麻油、スープ三デシリツトル
 (一合半)ラード
 調理法  鮃は長さ十糎(三
寸)幅四糎(一寸)厚さ一糎(三
分)位に切りまして、それをどん
ぶりに入れ、塩少量と塩で薄味を
つけよく混合せてそのまゝ暫く置
きます、次に筍は適宜の短冊に切
り葱は斜に切りましてからフライ
鍋に少量のラードを溶き、鮃を入
れて気永に両面を色の付くまで煎
りそれを皿に取つて置き、更に少
量のラードで葱と筍を炒め、鮃を
加へ、酒、塩、醤油、砂糖、スー
プを注ぎ胡麻油二三滴を注ぎ入れ
て薄味の塩加減にしてそれを文火
にし汁気の少くなるまで煮詰めて
から器にとります

 紅焼醸茄子<ホンシヤオニヤンガツとルビ>
  (挽肉詰茄子の煮込)
 【材料】茄子五個、豚肉〇・七
 五グラム(廿匁)葛、酒、塩、
 醤油、ラード、スープ〇・三六
 リツトル(二合)
 調理法   茄子はなるべく中
位の若い軟らかなものを選び、そ
れを皮を剥いてへたを去りまして
縦に頭の方から切り、くずさぬや
うに四ツに切目を入れます、次に
豚の挽肉はどんぶりに入れ薄塩を
して、葛大匙一杯を加へ、よく混合
せ茄子の切目へ詰込み、ちやうど
無花果のゆうな形に何個も作りま
す、詰まつた茄子は沸騰したラー
ドでざつと揚げ(中は生にても可)
油気を斷つて深鉢に入れ、被るま
でスープを注ぎ、酒、塩、醤油で
薄味に整へ、蒸籠又は御飯蒸器に
入れて約廿分位文火にかけて蒸し
それを取出して茄子を器に盛り、
鍋の汁は更に沸騰させて塩味をみ
ましてから葛の水溶を流し入れて
トロリとさせ、材料の上から注ぎ
かけて進めます

 煎香魚<センシヤンユイとルビ>
  (鮎の煮物)
 【材料】鮎五尾。椎茸三個、筍
 少々、ラード、スープ少々、塩
 醤油、酢、砂糖、卵、葛
 調理法   鮎は腹部より開い
て臓腑と背骨を去り、頭を切つて
きれいに洗つて水気を断つて置き
ます、次に卵一個をどんぶりに割
り、葛大匙山盛一杯を加へて混合
せ、それを鮎の衣として置きます
以上の用意が出来ましてから。フ
ライ鍋に盃二杯位のラードを溶い
て沸騰してから鮎を二、三尾づゝ
並べ、煎りつけるように裏表とも
煎り火が通つてから皿に並べて置き
きます、次に鍋にスープ茶呑碗一
杯を注ぎ、椎茸と筍は適宜の線に
切つてそれに加へ、砂糖、醤油、
酢、塩等にて甘酢に味を整へ、そ
の中へ水で溶いた葛を流し入れて
汁のトロリとなつたものを鮎の上
から注ぎかけて供します
(昭和8年7月15日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

 暑苦しい昨今はことに消化器官
がし緩して、食慾が衰へて来て食
物がまづくなります、かういふ時
に支那料理は味覚に強い刺戟を與
へて食慾を促してくれます、有合
せの厨具でどこの家庭でも出来得
る夏向家庭支那料理を御紹介いた
しませう
 
豚肉の冷菜
  醤肉<チヤンローとルビ>
材料 豚肉四〇〇瓦(約百七匁)、
ネギ半本、シヤウガ三片、醤油二
デシリツトル(一合一勺)
拵へ方=豚肉は大切のまゝ鍋に入
れ、ネギとシヤウガは小さく切つ
てそれに加へ、醤油をそゝぎかぶ
るまで水を加へて弱火にかけ約二
時間半位煮込んでから取出し、冷
しておきます、食時の時にさめて
からこれを刺身のやうに小口から
薄く切つて皿に奇麗に並べ、小皿
へ醤油またはオスタソースを添へ
で進めます、これは至極簡単に出
來でアツサリと美味しく頂けます

 牛肉と枝豆煮
  炒牛毛豆<チヤニユモトウとルビ>
材料 牛肉あるひは豚肉三〇〇グ
ラム(八十匁)枝豆の皮をむいたも
の茶呑碗一杯、シヤウガ二片、ス
ープ一デシリツトル(五勺五)酒、
塩、醤油、砂糖、ラード
拵へ方=肉は筋を去つて糸状に切
ります、枝豆は皮をはいで水洗ひ
ざつとゆでゝ薄皮をむき、シヤウ
ガはみじんに切つておきます、次
にフライ鍋に少量のラードを沸騰
させ、肉とシヤウガをざつといた
め続いて枝豆を加へスープを注
し、酒、塩、醤油、砂糖で適宜に味を
つけ、しばらく煮てから器にとり
ます
 これと同じ方法で烏賊と枝豆に
 肉を煮ることがあります、分量
 は烏賊と牛肉または豚肉、鶏肉
 等何品にてもよく同量、枝豆は
 適宜に用ひて惣菜向料理を作り
 ます

  茄子の揚げ煮
   油燜茄子<ユウモンガツとルビ>

材料 ナス十個、ラード、醤油、砂
糖、酒、スープ一デシリツトル(五
勺五)
拵へ方=ナスは若いものを縦に四
つに切り、それを沸騰したラード
で充分に揚げ、油気を切つておき
ます、次に鍋にスープを注し、酒
醤油、砂糖で甘からく味をつけ、
火にかけて沸騰させ、ナスを加へ
て汁気のなくなるまで煮込みます
これは熱い内でもさめてからでも
美味しく頂けます


 大根のスープ煮
   水晶羅菔<スイシヤウロウボーとルビ>
材料 大根一本、スープ、塩、葛
拵へ方=大根は皮をむき、それを
角砂糖位の賽の目に切り、お湯で
ざつとゆでます、ゆだつた大根は
水気を切つて鍋に入れ、スープを
充分に注いで塩薄味をつけ、文火
にして軟かくなるまで煮込み、下
し際に葛の水溶にしたものを少量
流し入れてトロリとさせ、器にと
ります、夏大根もかうして調理し
て頂けばあつさりと美味しく頂け
ます(春秋園吉田誠一)
(昭和8年8月9日付報知新聞朝刊9面=マイクロフィルム、)

犬の食餌談(上)
  仔犬から成犬へ
   離乳前後の食物と冷食
        吉田誠一
   
 犬の食物については愛犬家が苦
 心する所で、いろ/\いはれて
 居りますが、御参考のために私
 の経験談を申上げませう
   
 離乳前後の食物
  
 仔犬は生後三週間を過ぎれば視
力もつき、母乳の外に食物を日に
増し要求し、如何なる食物でも無
心に欲するもので、私はこの期よ
り毎日牛乳に粉乳を加へて三四回
与へ、一日一回新鮮な鶏の肝臓を
細く切つて生食させます、勿論週
を追ふ度びに肝臓の量と回数は増
すことは申すまでもありません
   ◆
 五週を過ぎ六週間迄は牛乳の外
に粥を冷して、それに肝臓を生の
まゝ加へ、六週間後離乳まで牛乳
を廃して食物に全力を注ぎ、野菜
魚類、獣肉、鶏骨等を種々な方法
で調理し、五十日までは粥に混合
し、五十日を過ぎれば米飯を用ふ
読者中には余りの乱暴に驚かれま
せう、然しかうした飼育法をとれ
ば離乳に頗る都合が好い、また他
家へ譲つた時に、粥にオヂヤとい
ふ手数が省けて、どれほど助かる
か知れません
   ◆
 以上の飼育法をとつても必ず美
味な偏食の犬に比較して栄養と発
育は劣りません、如何に美食を攝
つても発育不良には体型の不統一
等の仔犬はありませう、之等は何
れも偏食と運動不足が重なる原因
であります、勿論腸や寄生虫の駆
除法をとらなければなりません、
されば平素細心の注意さへ怠らね
ば、肝油ヴイタミンのD剤、又は
燐酸カルシユームの如きを必ずし
も用ふ必要がないのであります
   ◆
 また食餌の分量は腹八分の程度
を以て制限する人がありますが、
筆者は常に欲する儘に飽食せしめ
而して彼等の自由の運動に放任し
て置けば、胃拡張に陥つたり、過
多の脂肪に悩まされることもなく
飼育十二三年の日浅ながら、種々
の仔犬より成犬まで、最も愛犬家
の悩まるゝヂステンムパーを一回
として知らず、実際飼育に当つて
参りました
   ◆
 夏期は兎角冬期には犬にも温い
食物の方が理想的だと、勝手な理
屈をいひ又実行してゐる人もあり
ますが、人間以外の動物にとつて
は之は有難迷惑なのであります、
人間も西紀前五千年までは生食を
攝つて居りましたが、燧人が初め
て火食を教へ、獣肉類を炙り又は
焼いて嗜好するやうになつたので
あります(つゞく)
(昭和8年8月19日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

 犬の食餌談(下)
  仔犬から成犬へ
   離乳前後の食物と冷食
        吉田誠一
   ◆
 事実成犬がそれ程むづかしく、
美食を與へねば育たぬものとすれ
ば、人間の伴侶として今日の位置
を占めてゐることは勿論、恐らく
何千年前に絶滅したに相違がない
のであります、何となれば彼等は
新石器時代に人類の殘食物を漁つ
て人々に接近して以来、一万何千
年の長い間、人間の残食物によつ
て今日の家犬に進化して来たもの
でありますから、犬の体質には人
間の食物が最も適してゐると考へ
ます
   ■
 故に私共の毎日の菜食、魚食、
肉食の何れをも摂るその殘食物を
以て飼育されることを御奨めした
い、こゝで一言御注意しなければ
ならぬは如何に殘食物で差支ない
といつても、硬い骨や生の臓物又
は芋や人参の皮を構はず与へると
いふのでは勿論ないのであります
   ◆
 それは全く野生を脱して家畜と
して飼育されたものですから、原
始的生活を続けてゐる熊や狼と同
一視することは出来ません、筆者
のこゝで殘食物といふのは殘食物
をそのまゝ与ふのではなくこれに
幾等かの費用をかけて、巧に調理
することを意味します
   残廢食物でも犬の
   喜ぶ調理法
(一)…大根の葉や皮…
 何処の家庭でも大根の葉や皮は
 棄てますが、これを細く刻んで
 少量の動物性油で炒め、三七五
 瓦(百匁)位の小間切を加へて更
 に炒り、適宜に水を注し、暫く
 煮てから少量の砂糖、塩、醤油
 等にて薄味に調味し、冷してこ
 れを飯に混合せて与へます、中
 型犬で一食十錢前後の費用でも
 無心の費用知らずの美食よりも
 効果があります
(一)…鳥の骨…
  犬の頭数によつて鳥の骨を求
 め、これを包丁の峰または金槌
 様なものにて細く叩き、種々な
 野菜の切端を適宜に切つて深鍋
 に入れ、水を充分に注して一度
 沸騰させ、浮上つた泡を取去つ
 てから火を弱め、薄塩味にして
 長時間煮込み、野菜が軟くなつ
 てから火から下して冷して置き
 食事の時に御飯に混合せて与へ
 ます
(一)…食パンの切端…
  食パンの切端やトーストの残
 りを二錢銅貨位の大きさに切り
 これを沸騰したラードで揚げて
 油気を断つて置き、次に種々の
 野菜(唐辛には不可)を小さく切
 つて少量のラードで炒め充分火
 が通つた頃に牛乳一本に鶏卵四
 個の割合で、その鍋に流入れ塩
 味を調へ飯杓仔の様なもので焦
 さぬ様にボロ/\に炒め、冷め
 ましてから揚げたパンに混合せ
 て与へます
(一)…魚の臓腑…
  小魚の頭や尾、食べらるべき
 臓腑に小骨の如きものは一度沸
 騰した動物性油で充分よく揚
 げ、それに野菜を加へてフライ
 鍋様のもので、薄醤油に適宜の
 砂糖を加へ火を弱めて煮たもの
 を御飯に混合せます
(一)…豚や牛の臓腑…
  臓腑と一口にいつても種々あ
 りますが腸の他はどんなに煮て
 やつても喜んで食べます、殊に
 新鮮な肝臓は生の儘月に二三度
 位は与へた方が好い様です、腸
 は一度煮沸すれば硬くなつて消
 化の悪いものですから、包丁で
 細く切つて与えた方が衛生上か
 らも好いことです、臓腑は前日
 に肉屋に注文すれば取寄せて呉
 れます
(昭和8年8月23日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

 菊池寛は昭和10年の「文芸春秋」9月号に「私の犬達」という随筆を書いています。黒いブルテリア、柴犬、マルチスという3種の犬を飼って失敗した話に続けて「春秋園にいた犬」のことを下記のように書いています。

 <略>その後、グレイハウンドを買った。大井の春秋園にいた犬である。これは無事に育って今でも飼っている。犬の中の貴婦人のような犬である。競争犬である丈に、競争馬の良種たるサラブレッド種に似ていて、胸が深く、腹が小さく、流線型である。この犬が好きな理由の一つの原因は、馬に似ている爲であろう。川端君の説では、この犬は鼻の黒くないのが、欠点だとの事であるが、しかし飼っていると、そんな事は気にならない。眼付が、どこか人間に似ていて、とても人懐っこい犬である。<略>

 吉田は「飼育十二三年の日浅ながら、種々の仔犬より成犬まで」飼った経験があると書いていることから、趣味と実益を兼ねて犬を飼っていたことが考えられます。菊池は「春秋園にいた」グレイハウンドを「買った」と書いたのですから、広い春秋園の一隅に小屋を設けて何種かの犬を飼い、料理を食べに来た客が望めば、犬を売っていたかも知れません。
 菊池は昭和10年2月に何かに書いた「私の犬」が「菊池寛文学全集」にあるが、それによると、グレイハウンドが夜ベッドに入ってきて、大きな体で圧迫するので、苦しくて目が覚める。つまり子犬が「無事に育って」昭和10年には成犬になっていたということは、1年前、昭和9年に春秋園は広告は出さなかったけれども、まだ営業していたということでしょう。
(文芸春秋新社編「菊池寛文学全集 第8巻」8巻、「私の犬達」359ページ、「私の犬」378ページ、昭和35年10月、文芸春秋新社=国会図書館遠隔複写、)

秋の珍味  松茸と
       栗を用ひて
  おいしい支那料理
   手軽に出来るもの五種
    大井春秋園  吉田誠一

秋の珍味、松茸や栗が出ました、
これは材料にしたおいしい支那料
理数種を御紹介しませう、いづれ
も家庭で手軽に作れるものばかり
です
 炒松茸鶏絲<チヤ>
   (松茸と鶏の炒り煮)
 松茸と鶏肉を糸状に切つていた
 めたお惣菜に適当なお料理です
 材料(五人前)松茸中位のも
 の五本、鶏肉百匁、青豆大匙一
 杯、塩、酒、スープ、味の素、
 ラード少量
 手順  松茸は石付を切落して
皮を剥き食塩水でよく洗ひ横に二
つに切つてこれを線切りにします
鶏肉はなるべく若鶏の軟かいもの
を求め、これも糸状に切ります
 作り方   フライ鍋に盃一杯
のラードを沸騰させ、鶏肉を入れ
て炒め、火が通つた頃松茸と青豆
を加へて更に炒り、スープ五勺を
注ぎ、酒、塩、味の素で塩味をつ
け、水溶の葛少量を加へて混合せ
器に盛つて供します
 注意 松茸の代りにこれから種
 種の茸類が出ますから、それを
 御用ひ下さい、それ/\゛特有の
 風味が御座いますまた鶏肉の代
 りに牛肉、豚肉等でも結構です

  松茸炒飯<>
  (松茸炒り焼御飯)
 松茸を用ひた焼御飯です安価に
 簡単に出来ます
 材料  (五人前)松茸中位三
 本、鶏肉又は豚肉卅匁、葱一本
 青豆少々、酒、塩、醤油、砂糖
 味の素、冷御飯、ラード少々(食
 用油なれば何品も可)
 手順  松茸は石付を去つて皮
をむき、よく水洗ひしてから小指
の先端位の賽の目に切り肉も同様
に切り、葱は小口から細かく切り
フライ鍋に盃二杯のラードを溶き
肉を先に炒めて油気をきつて置く
 作り方   次に更にフライ鍋
に盃二杯のラードで野菜全部を炒
め、少量の醤油と砂糖で味をつけ
そこへ前の肉を加へて煮詰めます
御飯はなるべく硬い冷飯がよく、
それを飯椀五杯加へて杓子でよく
混合せながら炒りつけ塩味を補ひ
ボロ/\に炒りあげます
 注意 鍋の小さい時は材料を全
 部炒めて置いて御飯を加へる時
 に何回にも分けて炒めた方が無
 難です

 栗子烹鶏<>
  (栗と鶏の甘煮)
 有合せの栗と鶏でこの素的な料
 理、美味しいことは先づ第一
 材料 (五人前)百匁位の小鶏
 一羽、栗一合、玉葱四半個、酒
 醤油、砂糖、ラード、スープ
 手順  鶏は羽をむしつたもの
を背から開いて臓腑を去り、小骨
はついたまゝ、栗位の大さにぶつ
切りにし大匙二杯の醤油に浸けて
置く、栗は皮と渋を去つたものを
二つ又は四つに切つて蒸したもの
を用ひます、玉葱は縦に薄く切り
ます
 作り方  鍋に沢山のラード
を沸騰させ、醤油に浸した鶏をそ
の中で充分揚げて油気をきつてお
き、次にフライ鍋に盃一杯のラー
ドで葱を炒め、スープ五勺を注ぎ
醤油、砂糖、酒で甘辛く味をつけ
火を充分強くして、そこへ栗を加
へ、下ろし際に鶏を加へて汁気の
少くなるまで炒ります
 注意 鶏の代りに豚肉でも結構
 です


 栗子蝦仁<リイツ とルビ>
(栗と芝蝦の煮物)
 栗と蝦の炒り煮ですから老人や
 子供もよろこびませう
 材料(五人前)芝蝦または川
 蝦(皮を剥いて百匁位)■茶碗一
 杯、葱半本、スープ一合、塩、味
 の素、卵三個、ラード、葛
 手順  蝦は皮をむいて軽く洗
ひ水気をきつて深鉢に入れ、卵を
割つて白味だけをそれに加へ、葛
中匙山盛二杯と、薄塩をして混合
せておく、栗は皮と渋を去つて御
飯蒸しで蒸し、大きなものは三ツ
四ツに切つて置きます
 作り方   フライ鍋にラード
盃二杯を溶き、蝦を炒め、その中
へ葱を加へ、続いて栗を入れて更
に炒り、スープを注ぎ、酒、塩、
醤油、味の素で適宜調味してしば
らく煮てから少量の葛を水で溶い
て加へトロリとさせて青豆等を色
の配合に用ひて器にとります
 注意 ■のない節は銀杏(渋皮
 は沸騰したラードでざつと揚げ
 れば容易に剥げます)又は梨、
 くわゐ等でもおいしくできます


 抜糸栗子<リイツとルビ>
      (栗の飴煮)
支那料理嫌ひな人でも、きつと
支那料理に■引入れる程美味し
いものです
 材料 栗二合、砂糖、胡麻油
又はラード、葛
 手順  栗は皮と渋とを去つて
蒸し、これを冷まして葛を一面に
振りかけて置きます
 作り方  一つの鍋に油を沸
騰させてこの中に栗を入れ、茶褐
色になるまで揚げて油気をきつて
置きます、この栗を揚げている間
に、フライ鍋に油大匙二杯、水同
量、砂糖大匙山盛七杯を入れて火
にかけ杓子で混ぜながら飴のやう
に絲を引くまで練ります(これを
杓子に附着させ引揚げてて滴る砂
糖を吹けば針金のやうに固まりま
す)その中で前にあげた栗を入れ
て手早く混合せ、器に少量の食用
油をぬつてこれを盛り、温いうち
にいたヾきます
(昭和8年9月30日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

秋の味覚<横書き>
 サンマの
  支那料理
   費用は安くて
    誰れにも喜ばれます
 
これから軒並にた
ヾよふサンマを焼
く香に、しみ/\゛秋を感じます
が、サンマは値段が安いためか料
理の方ではとかく軽蔑されて單に
惣菜用として焼くよりほかに用ひ
ないやうでありますが、こゝで申
し上げるサンマ料理は、費用が安
くてどなたも喜ぶ家庭支那料理法
です
  炸烹魚<ツアポンユイとルビ>
   秋刀魚の甘酢煮
材料(五人前)サンマ五尾、玉ネ
ギ半個、乾シヒタケ四個、青豆少
々、スープ〇・一八リツトル(一
合)酒、塩、醤油、砂糖、酢、ラー
ド、クズ
【調理法】サンマは腹を開いて臓ふ
を去りひれも尾も切り去つてよく
水洗ひ水氣を斷つてから六ツ位に
竣望手盆峯に蕊髪
ツ四ツに切り、シヒタケは水に浸
して四ツに切ります、次に魚を深
鉢に入れ、クズ大さじ一杯を加へ
てサンマに附着させ、それを沸騰
した沢山のラードで充分よく揚げ
(少々こげで硬くなつても充分
揚げます)油氣を斷つておきます
 更に  フライ鍋に少量のラ
ードをとき、先にネギをざつとい
ため、続いてシヒタケ、青豆を加
へていため、揚げた魚を入れ、スー
ブを注し酒、砂糖、酢、塩、醤油
で甘酢加減に味をつけ、汁気が少
くなつてから器にとります、これ
は甘味の勝つた方が美味のやうで
す、ラードで充分に揚げてありま
すから、生臭味がなく骨や頭まで
やはらかく美味しく食べられ常に
サンマを口にしない人でも頂け
ます
支那料理ではこの煮方を炸烹と
いひ、種々な魚にこの方法を用
ひます、肉類、貝等を御試し下
さい、美味しいこと請合の料理
が沢山出来ます
  
  紅焼魚<ホンシヤオユイとルビ>
    ―秋刀魚の煮込み―
次に別な方法として・今の魚を揚
げて醤油と砂糖で煮詰めたもので
す、これは臓ふを出しよく水洗ひ
した魚を、そのまゝラードで揚げ
ておき、玉ネギ半個とシヒタケの
水にひたしたもの四個位を前のや
うに四つに切ります、揚げた魚は
フライ鍋に並べ、スープ〇・一八
リツトル(一合)を注し、砂糖と醤
油で薄味を整へ、その中へネギと
シヒタケを入れ(シヒタケの代り
に松タケを用ふれば更においし)
汁気が煮つまつてか器にとりま
す、砂糖は前の料理より少い方
がよいのです(春秋園吉田誠一)
(昭和8年10月3日付報知新聞朝刊9面=マイクロフィルム、)


 支那料理
  煎黄瓜鶏<センワンクワチーとルビ>
    胡瓜と鶏の炒煮
  
 どんな不便な山の中の宿屋でも
手近に鶏はありませう、都会の客
<数行欠落>
冊に切つて、どんぶりに入れ、生
姜を加へ、少量の酒に醤油大匙二
杯注いでよく混合せ、三十分位浸
しておきます
二、次に葱は一寸位に筒切り、胡
瓜は皮と種子を去つて丈一寸位に
切つて四ツに割り、椎茸は十文字
に切ります
 作り方 三、、次に鍋にラード
を沸騰させて前の鶏肉を火の通る
まで揚げ(充分火を強くして周囲
が茶褐色になる程度)油気を断つ
て置きます
四、更にフライ鍋に盃二杯位のラ
ードを溶き、葱と胡瓜を先にざつ
と炒め、続いて椎茸を加へて更に
炒り、火が通つた頃を見計つて醤
油、酒、砂糖で甘からく少量の汁
を作り、その中で前の鶏肉を加へ
て二三回鍋を返して器にとります
 備考 酒、醤油、砂糖の煮汁は
 どんぶりに先に作つた方が無難
 です(大井春秋園吉田誠一)
(昭和8年10月14日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

 支那料理
  お惣菜、酒の肴に
   喜ばれる海老料理
    手軽に作れるもの三種

  烹對蝦<ピンホエシヤとルビ>
 車海老の甘から炒りですから、
酒の肴にもお惣菜にも向く便利な
お料理です
 材料(五人前) 車海老五尾、
 玉葱半個、松茸或は椎茸四個、
 青豆少々、筍半本、酒、醤油、
 砂糖、スーブ、ラード、葛
 手順  一、車海老は水洗ひし
て頭と足を去り、皮はそのまゝに
して三ツ四ツのぶつ切りにします
二、松茸は石付を去つて皮をむき
さいの目又は扁平に適宜に切り、
椎茸は水に浸して四ツ切りにし、
玉葱は縦に二ツに割つて横に庖丁
を入れ、それを縦目に一分位に切
ります、筍は缶詰ものでよく、そ
れを斜切りにして置きます
 作り方  以上の用意が出来
ましたら鍋に沢山のラードを沸騰
させ、海老をからりと揚げて油氣
をきつて置き、更にフライ鍋に少
量のラードを溶いて玉葱、松茸又
は椎茸、筍を入れてざっと炒め、
スープ五勺を注ぎ、酒少量と醤油
砂糖で甘からく味をつけ、その中
へ海老を加へて汁気の少くなるま
でかきまぜながら煮付けます
 注意 これは甘味の勝つた方が
一般的です、なほ海老の皮はむ
き去つて、それに卵一個に葛大
匙一杯の割合の衣を作り、それ
を附けて揚げますと、お子さん
達にもそのまゝいただけますし
お好みによつては酢少量を加へ
てもおいしいものです


  焼對蝦<シヤオトエシヤとルビ>
  (車海老のパン粉付煎り)
車海老にパン粉を付けて、季節野
菜と焼上げた美味しい料理です
 材料(五人前)車海老十尾、
 芝蝦五十匁、豚挽肉二十匁、松
 茸二本又は椎茸、その他菌類、
 玉子二個、生姜二片、葱半本、
 パン粉、ラード、葛、酒、塩、
 砂糖
 手順  一、車海老は頭と皮を
去つてきれいに洗ひ腹の方から庖
丁を入れて二つに開き、表面に二
三ケ所庖丁の先端で筋を切り(こ
れは焼いてそり返らぬためです)
酒と塩で薄味をつけて置きます
二、次に芝蝦は皮を去つてそれを
庖丁で叩いて挽肉にしてどんぶり
に入れておき、豚挽肉を加へ、生
姜、松茸、葱等は細く切つてそれ
に加へ、葛大匙一杯を入れ、塩と
砂糖で味を調へ、よく混ぜ合せて
海老の腹部一面に附着させ、次に
どんぶりに卵を割り葛大匙二杯を
加へてよく撹拌してそれを海老全
体につけ、パン粉をふりかけて置
きます
 作り方  フライ鍋に少量の
ラードを沸騰させ、海老を一ツづ
つ並べて気長に片面を焼き、裏を
返してさらに焼き上げて醤
油又は食塩を添へて供します
 注意 焼く時に火はあまり強い
 と外皮が焦げて中まで火が通り
 ませんから、火加減に充分注意
 します、又フライ鍋にちようど
 合ふ蓋をして蒸加減にするも一
 方法です


  番茄龍蝦<フアンカロンシヤとルビ>
  (伊勢海老のトマト煮)
誰の嗜好にも適す伊勢海老のトマ
ト煮です、酒の肴にもお惣菜でも
結構です
 材料(五人前) 伊勢海老中位
 のもの三尾、トマトケチャッブ
 玉葱半個、ラード、塩
 手順   伊勢海老は水洗ひして
頭をとり、包丁でたてに二つに割
り、皮をむいて小口から一分位の
厚さに切ります、次に玉葱は二つ
に割つてたてに薄く切ります
 作り方   以上の用意が出来
ましたら、フライ鍋に少量のラー
ドを沸騰させ、玉葱を先にざつと
いため、海老を加えて更に炒り、
薄塩をしてからトマトケチャップ
を適宜に加へ、よく混ぜ合せて器
に盛ります
 応用 海老は伊勢のほか車海老
 巻等も代用できます、また海老
 は生のまま用ひてもよく、ある
 ひは一度ゆでたものを小口切り
 にして調理しても結構です
 注意 トマトケチヤツプはあま
 り沢山用ひますとまずくなるこ
 とがあります(大井春秋園吉田
 誠一氏談)
(昭和8年10月19日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

 支那料理
  春秋園 吉田誠一

炒栗子白菜<チヤリイツパアツアイとルビ>
  (白菜と栗の煮物)
白菜と栗のお料理で、お惣菜向の
どんな山の中でも出来るおいしい
白菜の煮方です
 材料 (五人前)白菜半本、栗
 一合、スープ一合、葛、酒、醤
 油、塩、砂糖、ラード
 手順  白菜は無造作に適宜に
切ります、栗は皮と渋をむき去つ
て、御飯蒸で蒸して置きます
 作り方  蒸せた栗は二つ又
は四つに切ります、次にフライ鍋
に盃五杯位のラードで白菜をいた
め、軟く火が通つてから栗を加へ
スープを注ぎ、塩少量と醤油、酒
砂糖で味を調へ、しばらく煮てか
ら少量の葛を水溶して流し入れま

 注意  味は塩味にして醤油は
味を補ふ程度が結構です、また砂
糖もあまり沢山加へない方がよい
のですが、これは嗜好に適すやう
調味下さい、葛はあまり沢山入れ
ぬ方が美味です、また葛を用ひず
汁気のなくなるまで煮詰てもおい
しく出来ます、これは白菜の変つ
た食べ方として歓迎されませう
(昭和8年10月25日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

 支那料理
  春秋園 吉田誠一

 干焼童鶏<テシヤオドンチイとルビ>
若鶏雉を少量のラードで焼いて、
三杯酢をかけた素敵においしいも
のです
 材料 (五前)話鶏一羽(二
百匁位のもの)生姜二片、葱半本
パセリ少々、ラード、酒、醤油、
砂糖、酢、スープ
 手順 一、若鶏は羽をむしつ
たもの脚を剥して手羽をとり笹
身も取つて骨を抜き、予め包丁で
平たく切広げ、横に包丁の先端で
筋を切り、中匙一杯の醤油をまぶ
して置きます
二、葱と生姜パセリはみじんに切
ります、次に鍋にスープ五勺を注
ぎ、中匙一杯の砂糖と醤油と酢を
加へて甘酢加減の汁を作り、火に
かけ沸騰してから味の素を加へ、
どんぶりにとつてみじんに切つた
材料を入れて混合せて置きます
 作り方  次にフライ鍋に盃
二杯のラードを溶いて、前の鶏肉
を広げて並べ、ビフテキを焼くや
うに両面共焼き、火が通つてから
取出し、端の方から適宜に切つて
皿に盛り、前の汁をその上から注
ぎかけて供します
 備考 甘酢の汁は熱くても又は
 多少冷めてもよいのです、なほ
 鶏の変つた食べ方としては焼き
 上つた時に醤油五六滴落して鶏
 全体に煎りつけ、その儘切つて
 いたゞけばあつさりと美味しく
 食べられます
(昭和8年10月27日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)

支那料理
  春秋園 吉田誠一

  煎魚<センユイとルビ>
大へんあつさりした鮃の煎り煮
です
 材料(五人前)鮃肉百匁、筍
 一本、椎茸または木茸少々、葱
 一本、生姜四片、酒、塩、醤油
 砂糖、胡麻油、スープ一合五勺
 ラード
手順 一、鮃肉は丈二寸、幅
一寸位の短冊に切り、それを深鉢
に入れて、酒、塩にて薄味をつけ生
姜を加へてよく混合せて置きます
二、椎茸または木茸は水浸して石
付を去つて四ツに切り、筍は缶か
ら取出して斜に薄く切り、葱は縦
に包丁を入れて五分に切ります
作り方 三、以上の用意が
出来ましたらフライ鍋にラード大
匙二杯を溶かし、沸騰してから鮃
肉を鍋に並べて片面を焼き、焦目
が褐色についた頃を見計らつて裏
を返して表裏共焼き上げ、金網に
上げて油氣を切つて置きます
四、次に更にフライ鍋に盃二杯の
ワードを沸騰させ、野菜全部を入
れてざつといため、スープを注げ
酒、醤油、砂糖で薄加減に味を調
へ胡麻油五、六滴たらして香をつ
け、前の焼いた鮃を加へて静かに
混合せ、火を弱めて汁の煮詰まつ
たころ器に盛り、鍋に幾分か残つ
た汁をその上から注ぎかけてすゝ
めます
 注意 鮃肉はフライ鍋の大小に
 よつて何回にも繰返してます、
 油の量は鮃肉を並べて厚さの半
 になる位がちようどよいのです
 また鮃肉が崩れ易いものですか
 ら取扱ひを静かにすることです
 応用 この方法で鮃肉の外、白
 味の魚をお用ひ下さい、大刀魚
 は人によつてはあまり喜ばれぬ
 不味い魚ですが、以上の方法で
 調理すれば、大刀魚と思へぬ程
 美味しくいたゞけます、大刀魚
 は鱗をきれいに洗ひ、臓腑を去
 つたものを丸のまゝぶつ切にし
 てお惣菜料理にお用ひ下さい、
 又野菜も季節のものを集めて工
 夫すればより以上おいしくいた
 だけます
(昭和8年10月31日付中外商業新報朝刊5面=マイクロフィルム、)








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手軽にできる北京料理
      晩翠軒
      料理主任   吉田誠一

 毎年婦女界の修養会は大会を十一月に開
くのを恒例として居りましたが、本年は記
事の実際化を計るために、十一月十日から
十三日まで料理講習会を開くことになり、
その一部として、東京でも味のよいので有
名な晩翠軒の料理人范明徳氏が講習されま
すが、この記事は講習会当日のものです。

   ◎炒蝦仁<チャーシヤーシンとルビ>
材料(五人前)芝蝦(皮をむきたるもの六十匁)青豌豆大匙二
つ、筍一本、お酒少々、スープ一合、葛少
少、葱少々
 芝蝦は皮をき軽く洗ひ、卵の白身二箇を
まぜ、塩で薄味
をつけ、それに
葛を少しまぶし
ておきます。ラ
ードを鍋にとき
青豌豆と筍を
(缶詰物)賽の目に
切つて一寸炒り
芝蝦を入れて固まらぬ様に掻きまぜ、葱の微
塵切を一摘み風味に入れ、スープを入れて少
し煮ます。それに酒少しを注ぎ、葛の水溶き
した物を入れて鍋から引き上げます。これは
紅桃色の蝦に青豌豆が交つて美しい物です。


   ◎苦■肉<コロロとルビ>
材料 豚肉百匁、椎茸六つ、筍一本、卵黄
二つ、酢大匙二つ、砂糖大匙三つ、酒少々、
スープ一合五勺、醤油大匙二つ、葛少々
豚は四五分の賽の目に切り、卵の黄身をま
ぶし、塩で味をつけ、葛をまぶして置きます
鍋に沢山のラードをとき、前の肉を入れて杓
子で掻き混ぜながら、カラ/\に揚げて、鍋
から上げて油をきり、筍椎茸の賽の目切り
をラードで炒め、その中に前の肉を入れます
次にスープを注ぎ込み、酒少々を振り入れて
次で醤油を入れ、酢と砂糖を入れて、一寸煮
葛の水どきしたものを入れて、ドロクとさせ
器に盛ります。これは食べて見て少々砂糖の
利き加減の方が美味しい様です。


   ◎蟹粉蛋<ハイフンタンとルビ>
 材料 蟹(大缶半分)卵黄五つ、葱少々、スープ
茶呑半分。
蟹は缶から出しよくほごし、卵の黄身だ
け共によくまぜ、塩で味をちゝへます。
少量のラードを鍋にとか、葱の微塵切を一
摘み入れて、前の蟹を入れます。スープ少々と
お酒少しを注ぎ、焦げ目のつかぬ様にバラバ
ラに炒ります。急場のお客などに好適です。


   ◎四宝湯<スーフウタンとルビ>
 材料 鮑二個(缶詰)ハム四切、筍二本。椎
茸六つ、鶏のきも、豚肉三
十匁、
スープ
二合五
勺、
 鮑は
薄く平たく剥身
にします。ハムは
短冊に、鶏のきもは
薄く削いで置きます。豚肉も同じく剥身にし
ます。筍は大切に、椎茸は一つ又は半分位
に切ります。以上の物を笊に入れて一寸茹で
丁度日本の鍋物の様に以上の具を奇麗に丼
に盛り、鶏のスープを煮立たせてよく泡を取
り、それに一寸塩味をつけて温めたものを、
その上からかけて出します、これは日本のお
吸物の様なものです。

   什景炒飯<シツチンチヤアハンとルビ>
材料 飯四杯分、鮑一つ、豚肉二十匁、ハム
二十匁、焼豚二十匁、椎茸五つ、卵四つ、筍
二本、青豌豆大匙二つ、葱半分。
 これは日本の五目飯のようなものです。野
菜や肉は小さく二分角位に切ります。ラード
を鍋にとかし、卵を鍋に入れてよくかきまぜ
前の具を入れて再び炒り、一寸塩味をつけま
す。そしてご飯を入れます。ご飯はなるべく
固めに炊いたのがよく杓子の背で固まぬ様に
よく口だけ見せる粒がボ/\になつたら鍋か
ら下して器に盛ります。日本式にこの中に砂
糖少々醤油少しを入れると美味です。
 以上の材料を盛り合せます器物は大抵のご
家庭では支那皿がありませんから、洋食皿の
果物皿や菓子皿を代用すればよいと思います
(婦女界出版社編「婦女界」34巻6号287ページ、大正15年12月、婦女界出版社=館内限定デジ本、)


手軽にできる北京料理(その二)
      晩翠軒
      料理主任   吉田誠一

 お寒くなりますと、体温を維持するために
脂肪分を含んだものが必要になります。こう
した時に最もよいのは、温かくて脂肪分の多
い支那料理です。家庭向で手軽に出来る一品
料理のみですから、是非お試み下さい。

   ◎■炒魚
 材料(五人前)比良目百匁、卵三個、塩少々
 メリケン、
粉大匙一杯
葛小匙ニ杯
スープ盃
三杯、酒少
々、ラード
沢山、醤油
小匙一杯、
砂糖小匙五
杯、酢少々
胡麻油小匙
一杯、葱少
少、生姜少々。
 比良目を四五分の賽の目に切つて塩にまぶ
しておきます。丼に卵を二個割つて掻きま
ぜ、それにメリケン粉と葛の水溶きしたもの
(葛を水熔きして上ずみを棄て下の沈澱分のみを用ひる)を
加へて掻きまぜその中に前の比良目を入れて
よくまぶします。別に鍋に沢山のラードを溶
いて煮立たせておき、前の肴を狐色にからり
と揚げて、油を切つておきます。別の鍋にラ
ードを入れて溶かし、葱の微塵切を一摘みと
刻んだ生姜一摘みを風味に入れていため、ス
ープを注いで酒、砂糖醤油、酢、胡麻油を入
れて味をつけます。その中に前の揚げた肴を
入れて一寸煮て、葛の水溶きしたものか入れ
て、トロリとした熱いのをかけて出します。


   ◎川蝦仁<センシヤシンとルビ>
 材料 芝蝦(皮をむたいもの適宜)ハム少々、椎
茸少々、筍少々、青豆少々、卵白二個、葛小
匙一杯、塩少々、スープ二合五勺、醤油数滴。
 これは蝦の
スープで日本
のお吸物のよ
つなものです
ハムや椎茸、
筍(缶詰物)等
は小さく二分
角位に切つて
おきます。芝
蝦は洗ひ水気
を切つておき
別に丼に卵
白二個と葛の水溶きしたものを掻きまぜ、そ
に蝦とハム、椎茸や筍、青豆(缶詰物)を一
緒に入れでよくまぜ、塩で味をつけて、それ
を更に熱湯の中でざつと茹でます。別の鍋で
スーブを煮立たせ泡を去り、醤油の数滴で淡
い色をつけ、塩で味をとゝのへて、前の茹で
てある蝦等を丼に入れて、スープを上から
かけます。


   ◎油■金鶏<ユーパーチエンチーとルビ>
 材料 鶏一羽(約三百匁位)、スープ五勺、葱少
少、砂糖、醤油、酒等を少々、ラード沢山。
 これは鶏を油でいためた西洋料理のチキン
ロースのような料理です。鶏は毛をむしつて
尻を切り、臓腑を引出し脚の関節を切つたも
のを、熱湯につけて指先で軽洗つて毛をき
れいに去つてから
調理いたします。
しかし鳥はお求め
の節に鳥屋にたの
んで毛をむしつて
貰つた方が手間を
とらずによいの
です。
ぴゐら
 毛をむしつて洗
つた鳥を、一時間
間ばかり湯で煮て
鍋にラードを沢山
溶かして、狐色に
揚げて油を切つて
おきます。その両脚を庖丁と手で去り、手羽
をとり、棟を剥がして笹身を最後にとります
その手と脚をぶつ切りにして、皿に盛り、残
りの笹身を縦に手でさいて、皿のぶつ切りの
上に綺麗に盛ります。別の鍋にスープを入れ
て葱の微塵切を風味に入れ、砂糖、醤油等で汁
を作り、それを肉の上からかけてすゝめます。


   ◎玻璃白菜<プーリーバーツアイとルビ>
 材料 白菜大の半分、ハム四片、スープ二
合五勺、ラード少々、椎茸一個、筍半本。
 白菜を洗つて水気を切り、一寸五分位に庖
丁します。深鍋にラードを少々入れて一寸白
菜をいため、そ
れにスープを注
いで塩で味をつ
けて、約二十分
間位煮ます。そ
の時に筍(缶詰物)
を薄く切つたも
のと、椎茸一枚
を四五枚に、そ
いだものを入れ
て、一緒に煮ま
す。軟かくなつ
たら鍋から上げて水気を切つておきます。そ
の白菜を大皿に初め一列に並べて、他は手際
よくその上に盛つて、最後に色どりに筍と
椎茸とハムをきれいに盛ります。
別の鍋にスープ五勺を入れて火にかけ、沸
騰したら、葛の水溶きしたものを加へてド
ロリとした物を白菜の上からかけますと、丁
度玻璃(ガラス)を通して、白菜が透けて見えて
きれいです。温かくて、季節向の料理です。


   高麗香蕉<ハーリーショーチヨーとルビ>
 材料 パナゝ五本、小豆餡少々、葛大匙一
杯、ラード沢山、砂糖少々、卵白五個。
 これはバナゝの温かいお菓子です。洋食の
おなしながもゆがるみにゅまぜ
デザートと同じで、支那料理にも料理の中程
に出ます。パナゝの皮を剥き、一分位の厚さ
に斜に切つて、パナゝとバナゝの間に餡を挟
んで軽く指で
おさへておき
ます。丼に
卵白を泡立て
て、葛の水溶
きしたものを
大匙一杯位を
ポロ/\にし
てふりかけて
よく混ぜてお
きます。別に
鍋にラードを入れて溶き、前の泡立てを衣と
して前のバナゝを天ぷらにして煮立つてゐる
ラードで揚げて油を切つて、皿に盛り、上か
ら砂糖をふりかけて出します。
(婦女界出版社編「婦女界」35巻1号287ページ、昭和2年1月、婦女界出版社=館内限定デジ本、)


[冷たくて美味しい和洋支那料理}
  味専門のお手軽支那料理
      支那料理司厨士会長  吉田誠一

   豚肉のお刺身(醤肉片)<ヂイアンロウビーエムとルビ>
とても簡単に出来て大変美味しい豚肉のお
刺身で夏向きの支那料理です。
 材料(五人前)豚肉七十匁、葱一本、生
姜四片、醤油、酒少々。
 拵へ方(1)豚肉は赤身のなるべく脂肪の少
い處を筋を綺麗に削ぎ取つて大切の儘深鍋に
りしときとって思い出のままお鍋に
入れ、葱と生姜を大きい儘加へ、被るまで熱
湯を注して火にかけ、浮上る泡を掬ひ除つて
酒大匙二杯を注ぎます。
(2)そのまゝ三十分間位茹でてから、醤油を
一合注してて煮立つてから火を弱め、更に三十
分間煮込んで火から下し、其儘汁の中で冷し
ます
(3)充分冷めましたら取出してなるべく角形
に形を整へ、小口から刺身のやうに薄く切つ
て揃へ、
切端は更
に食べよ
く薄切に
して皿の
中央へ盛
つて置き
前の切身
でそれを
体裁よく覆ふやうに盛付けます。
 備考 醤油の中に砂糖を入れてもよく、又
醤油を用ひず塩味の白茹にしても結構です。


   薄焼玉子と胡瓜和へ(培蛋皮絲)<ベイタムビイスウとルビ>
 何処へ御住ひの方にも美味しく拵へて頂け
る、支那料理の夏向きのものです
 材料(五人前)玉子三個、胡瓜中位のも
の二本、
トマト中
一個、片
栗粉、ラ
ード、酢、
砂糖、塩、
味の素。
 拵へ方
(1)玉子を
丼に割入れ、茶匙三杯の片栗粉を少量水で
溶いて加へ、よくかき混ぜ、鍋にラードを薄
く敷いて、其中へ一個分づつ流入れて薄焼玉
子を焼き、俎板へ広げて冷し、くる/\巻い
て端から細く切って置きます。
(3)胡瓜は一寸五分位に切つてそれを縦に細
く線に切り、トマトは皮を剥いて縦に八ツ位
に切つて置き、丼に酢大匙二杯と水同じく二
杯、砂糖大匙平に一杯と塩を好に依つて少々
加ー味の素を少し加ーて胡瓜とトマトと細切
玉子を加へ、皿に手際よく盛つて侑めます。


   素麺と野菜の三杯酢(拌粉條)<パムフエムヂヨウとルビ>
 材料(五人前)極細の素麺五把、小豆萌
丼一杯、胡瓜三本、葱二本、白菜三四葉、
生姜三片、酒、酢、砂糖、醤油、胡椒。
 拵へ方(1)鍋に熱湯をたっぷり沸し、素
麺を入れて浮上つたら水五勺位を注し、更に
浮上つて來たら水の中へ掬ひ出して冷してお
きます。
 (2)葱は薄く斜に切り白菜は横に三分位に切
つてそれ
に萌を加
へ、熱湯
へ入れて
さつと茹
で、水へ
取出し冷
してから
水気を固
く絞つて置き、胡瓜は二寸の長さに切つてそ
れを細く切り生姜は微塵に刻んでおきます。
 (3)ボールへ酢大匙三杯と酒大匙一杯、水大
匙二杯、醤油大匙一杯、砂糖大匙三杯、塩小
匙一杯と胡椒を入れ、味の素があつたら少々
加へて味を試し、好みの三杯酢が出来てから
其半量で素麺を和へて各皿に盛分けて、残り
の酢で茹でた野菜に胡瓜と生姜を和へて素麺
の上へ体裁よく盛ります。

(講談社編「婦人倶楽部」18巻10号472ページ、昭和12年8月、講談社=館内限定デジ本、)


試食聯盟晩餐
満州建国記念
    成吉思汗料理
            春秋園   吉田誠一
菜単
  冷葷
 毛豆肉凍
 北京松花
 辣子藕合
 拌海蜇絲

清湯肉片
炸[火留]魚塊
成吉思汗
炸鮮茄尖
地梨対蝦
芝麻元宵
八宝豆腐

 三月十八日、第二回の試食聯盟晩餐が大井の春秋園で開かれました。出席された会員は百名。当日の主試食は、満洲の建国を記念する成吉思汗料理で御座いました。陣中料理を偲ぶ成吉思汗料理、それは単に材料の点から申しますれば、羊の肉を焼き、割醤油を付けて食べると云ふに過ぎないのですが庭園に出で、穴のあいた鉄製の饅頭笠を伏せたと云つた様な鍋の上でぢり/\と羊肉を焼き乍ら立食する、其の興は一寸他では味はゝないものであり、且其の肉の美味を讃へる声は、皆様の口から漏れた所で御座いました。見知らぬ方々の多い会合とは思はれぬ親しみも、此処から起つたものと、うなずかれる程で御座いました。興と意義深かつた試食の会は又の日を期して九時過ぎ散会致しました。以下其の日のお献立と調理法を掲載いたします。

(3)成吉思汗(羊肉のスキ焼)
材料 五人前
   羊肉百匁、羊生脂少々、
   酒、酢、醤油、パセリ少々
   葱少々、柚子又はレモン一個
 成吉思汗料理につきましては、本誌新年号にくわしく申上
げましたが、成吉思汗料理と云ふのは、日本人がつけた名
で、要は、羊肉を薄く刺身の樣に切り、それを酒と醤油を同
量に混ぜ合せた汁に暫く浸して置き、之をスキ焼にして、醤
油と酢酒を各々同量宛合せ、それにパセリと葱の微塵切りを
加へ、柚子或はレモンの搾り汁を加味したタレをつけて食べ
るのです。
 尚此の料理法は、牛、豚、鯨等の肉に応用されても妙味あ
ると云ふ事と、陣中を偲ぶテント張りの下の成吉思汗料理
は、当春秋園独特のものであると云ふ事を附け加へて置きま
す。
   ×  ×  ×
成吉思汗料理に用ひました羊肉は市内の牛肉屋では間に
合ひませんから御望みの方の御参考迄に、最も信用ある農林
省指定国産緬羊問屋を御紹介致します。
  東京市赤坂区田町  松井平五郎商店
  電話青山一一九〇番
(,大日本料理研究会編「料理の友」21巻5号20ページ、昭和8年5月、料理の友社=原本、)

 新聞の広告は私独りでは各紙ごと丁寧に調べられなかったが、広くざっと見たところ春秋園は昭和7年後半から途切れだし、8年には激減したように思います。でも春秋園は営業していたから「料理の友」1月号から大森駅前の春秋園として広告を出し、吉田はその春秋園の料理人として1月号に「痛快無比 成吉思汗料理=烤羊肉」を書いた。
 吉田の肩書きは、この後「料理の友」の多くの執筆者と同じく大日本料理研究会講師の肩書きを得て、常連の書き手となりますが、私はね、吉田は「素人に出來る支那料理」でデビューした満洲帰りの料理研究者、山田政平に追いつこうとした人だとみたい。山田のその本が大正15年に出たら、吉田は昭和3年に「美味しく経済的な支那料理の拵へ方」を出し、同10年12月号に山田と同じ肩書きの大日本料理研究会講師として「温まる支那鍋料理」からスタートしました。
 資料その2が「料理の友」に於ける吉田の執筆リストですが、作成の元にした味の素食の文化センター図書館の「料理の友」は昭和8年1月号から同10年12月号までの間で6冊欠けているので、もう1件ぐらいあったかも知れません。

資料その2

料理の友 第二十一巻 第五号
1933年(昭和8年)
満州国建国記念成吉思汗料理...春秋園 吉田誠一


料理の友 第二十三巻 第十二号
1935年(昭和10年)
温まる支那鍋料理...大日本料理研究会講師 吉田誠一


料理の友 第二十四巻 第三号
1936年(昭和11年)
子供の喜ぶ雛節句家庭支那料理一円卓...大日本料理研究会講師 吉田誠一


料理の友 第二十四巻 第九号
1936年(昭和11年)
日本式客膳支那料理...講師 吉田誠一


料理の友 第二十四巻 第十号
1936年(昭和11年)
子供本位の支那栄養料理...大日本料理研究会講師 吉田誠一


料理の友 第二十四巻 第十一号
1936年(昭和11年)
高速消化栄養軟食料理...大日本料理研究会講師 吉田誠一


料理の友 第二十四巻 第十二号
1936年(昭和11年)
野住物支那料理...大日本料理研究会講師 吉田誠一


料理の友 第二十五巻 第一号
1937年(昭和12年)
支那重詰料理...大日本料理研究会講師 吉田誠一


料理の友 第二十五巻 第二号
1937年(昭和12年)
成吉思汗鍋料理...大日本料理研究会講師 吉田誠一


料理の友 第二十五巻 第三号
1937年(昭和12年)
家庭卓支那料理(三人四品卓五十銭 四人四品卓一円 五人五品一円五十銭)...大日本料理研究会講師 吉田誠一


料理の友 第二十五巻 第四号
1937年(昭和12年)
鯨肉軟体材料ホルモン支那料理...大日本料理研究会 講師 吉田誠一


料理の友 第二十五巻 第六号
1937年(昭和12年)
変敗せぬ冷菓支那一品卓...大日本料理研究会講師 吉田誠一


料理の友 第二十五巻 第八号
1937年(昭和12年)
納涼宴席支那菜単...大日本料理研究会講師 吉田誠一


料理の友 第二十五巻 第十号
1937年(昭和12年)
豆腐応用支那料理...大日本料理研究会講師 吉田誠一

料理の友 第二十五巻 第十一号
1937年(昭和12年)
簡単中飯寧波料理八品...大日本料理研究会講師 吉田誠一